会長挨拶

2019/2020年度 会長挨拶

化学センサ研究の益々の発展に向けて

化学センサ研究会・会長 鈴木博章

(筑波大学数理物質系・教授)

 

 

 

 今年から化学センサ研究会の会長を務めさせていただくことになりました。私の化学センサ研究会との関わりは、35年前の1984年に東京工業大学の長津田キャンパスで開催された第4回化学センサ研究発表会での発表が最初になります。学生時代、私は化学センサとは縁遠い物理の研究を行っていましたが、1980年代前半のバイオブームの影響もあり、バイオセンサの研究を始めることになりました。異分野からスタートするということは、不利な点も多いのですが、逆に従来のその分野にない新しいアイディアを持ち込むこともできます。当時、東京工業大学におられた軽部征夫先生(現東京工科大学学長)のご指導もあり1980年代中頃から微細加工技術を用いた電気化学センシングデバイスの微小化を中心的なテーマとして研究を進めてきました。化学・バイオセンシングデバイスの微小化は、現在では世界中で誰でも行うような時代になっていますが、当時、この種の研究を行っているグループは、世界的にも非常に限られていて、化学系の学会で発表をしても、何か異端的に見られていて、関心を持たれない、寂しい雰囲気を強く感じておりました。しかし、化学センサ研究会では、そのようなテーマでも温かく受け入れていただき、既に15年前になりますが、清山賞の受賞を通じ、研究業績も評価していただきました。
 現在、元会長の清水先生、前会長の丹羽先生とともに論文誌Sensors and Actuators Bのエディターを務めさせていただいています。最近の投稿数の増加は顕著で、年間に掲載される論文数も1000を軽く超えています。ここまで掲載論文数の多い論文誌を見つけるのは容易ではありません。Impact factorも現時点で5.67であり、今後着実に上がり続けることは確実です。これは、化学センサ研究の世界的な高い活性度を端的に表しています。近年、POCT、IoT等、化学センサの活躍の場は着実に増えています。日本で化学センサの研究・開発に関わっている私たちも、この上昇機運に乗り遅れることなく、チャンスをものにしたいところです。
 センサのように実用化が最終目標となるテーマでは、ニーズとシーズのマッチングは非常に重要です。ニーズにうまくマッチした製品は順調に伸びてゆきますし、インパクトのある研究はニーズと密接に関係しています。萌芽期から先手を打って、我が国が独占的に有利に進められるような新しいテーマ、分野、製品を開拓・開発する戦略が、分野としても今後益々重要になってくるのではないかと思います。この点において、大学と産業界の連携は重要です。化学センサ研究会の一つの特長は、産業界の会員が多く、活発に活動されている点です。もちろん、企業秘密という壁がありますから、軽々しく言えるものではありませんが、会員の皆様方には、化学センサ研究会という交流の場をぜひ積極的に活用していただきたいと思います。
 上に述べたような流れもあり、近年、これまで化学センサとは無縁であった企業においても、化学センサに関心を持ち始めている研究者が増えています。また、大学においても、研究の高度化を目指し、異分野の研究者と共同研究を進める機会が増えています。会員の皆様方には、新しい仲間を増やし、交流・議論の場をより広げるべく、関心を持たれている方々にぜひ入会のお声掛けをいただければと思います。また、未入会の皆様には、ぜひともこの機会に化学センサ研究会に入会し、研究・開発の方向付けに大いに活用していただければと思います。
 微力ながら、今後2年間、会長職を全うしてゆきたいと考えておりますので、ご協力をよろしくお願いします。