化学センサ40年と次世代への期待
化学センサ研究会・会長 清水陽一
(九州工業大学大学院工学研究院・教授)
この度、錚々たる先輩方が務められた化学センサ研究会の会長を拝命することとなり、私で良いのかという思いと、せっかくなので本研究会のため少しやってみようか、という心境です。頼りない会長ですが宜しくお願い申し上げます。
さて、私が化学センサというものに遭遇したのは、修士1年の時に九州大学・清山哲郎先生らが1983年9月19日に第1回化学センサ国際会議(IMCS)を福岡で開催された時で、私は会期の2日目頃に学会事務局に呼び出されてお手伝いをしました。主に写真館との往復など外回りで、講演会場は見れなかったのですが、ホテルニューオータニ博多で行われたバンケットに、運よく参会を許され、重鎮先生方にお会いできたこと、学生ながら国際会議の雰囲気を体感できたことは、後々貴重な経験となりました。
私の卒論・修論のテーマは、酸素電極触媒の研究でしたので、当初センサには縁はなく、その後、1986年に九州大学・山添曻先生、三浦則雄先生のもとで助手になってから、化学センサ研究会事務局のサポートをしたのが始まりです。特に、化学センサ誌(No. 1-4, Sup. A, B)、年2回の化学センサ研究会冊子の、年8冊の編集と各研究会等の開催地、電化本部とのやり取りを行いました。本会の機関誌である化学センサは、当初は手書き原稿のワープロ打ちと図の切り貼り、その後原稿の電子化と編集ソフトの利用、現在ではWordファイルがあればすべての編集が可能と、ずいぶん進歩しましたが、おそらく年8回も印刷物を作れる研究会・委員会・支部は、他にはないと思われますし、現在の編集委員や事務局の方々のご尽力には感謝します。
さて、私の化学センサ研究は、助手になって山添先生が何か環境系センサをと、立ち上げた固体電解質式のNOxセンサで、IMCSのプロシーディングスを参考に、オキソ酸/イオン導電体型センサから始めました。NOxなのでオキソ酸にはNaNO3、固体電解質にはNaイオン導電体のベータアルミナを用いましたが、どの様に硝酸塩を付けるかが課題でした。結局、溶融融着とし、融点を下げるためにNaNO3とBa(NO3)2を混ぜたのが、後の高性能な2元系オキソ酸補助相の始まりで、かなり良いNOx,CO2性能を偶然見つけたのですが、オキソ酸塩類が、常温・高湿度での安定性が乏しいため実用化にはもう一歩至りませんでした。現在、コロナ禍でIR式CO2センサが爆発的に普及したのを見るともうひと粘りできたのではないかという思いです。このように1990年代後半は、環境系センサ等でも本研究会は活発であったと思います。また、並行してバイオセンサの大きな進歩、近年ではヘルスケアセンサへのニーズと用途は拡大しましたが、現在は、ウイルス検知などが求められ、化学センサには、次への大変革が期待されていると思います。
そこで、これからは、1.手法では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り込み、2.目的では、医療、健康、安心・安全とGX(グリーントランスフォーメーション)、3.材料では、新規検知材料の超小型化、の3点が重要ポイントになると思います。究極には、高性能なガスクロ・液クロ・SPRにとって代わるスマホでも駆動可能なマイクロセンサが次のターゲットとなると思います。
さて、1981年10月5日に第1回化学センサ研究発表会が東大で開催されて2023年の春で72回、42年になります。この間、半導体式、接触燃焼式、湿度、空燃比、排ガス検知、NOx, SOx等のセンサ、ISFET、血糖値センサなど多くの化学センサが実用化されました。1980年初頭を日本における化学センサ具現化の黎明期とすると、次の10年で半世紀となります。30年前は解決できなかったGX関連センサは、この30年間に進化した新材料・新技術の登場で可能となると信じます。また、本研究会が積極的に、若手研究者の育成、異分野との連携、海外研究者との連携・交流を進め、日本のセンサ技術をさらに深め、人類に貢献できればと願います。