会長挨拶

平成21/22年度 会長挨拶

センサ研究開発の意義

化学センサ研究会・会長 内山俊一

(埼玉工業大学 学長)

 

 

 

  現代はさまざまな高度先端科学技術が人類の幸福をもたらす時代になったといえる。先端技術の中でも計測技術の進歩は目覚ましいものがあり、その中でも地球温暖化などのグローバルな環境問題や局所的な公害問題の解明やそれらの解決および作業環境などの適切な維持管理において、さまざまな物質の検出や濃度測定を行う化学センサの技術開発が極めて重要な役割をはたしていることは言うまでもない。研究開発の面から言うと、画期的かつ独創的なセンサ技術の開発は研究者個人の着想、創意工夫によるところが大きく研究者冥利につきる学問分野の一つであり、バイオセンサを専門としてきた小生の若かりし頃の思いを改めて思い起こしてみると将来のある若い世代の有為な人材がその魅力に取り付かれてセンサ開発が進歩していくことを強く望むものである。ここで少し、センサ研究開発の楽しさに触れてみたいと思う。以前から強く感じていることであるが、研究成果を生むにはポジティブな思考、感性が大変重要に思える。学生たちの研究の進め方を見て思うのであるが、往々にして彼らは「なぜうまくいかないのか」を追求してしまう傾向があるような気がしてならない。うまくいかないのであれば他の方法なりに切り替えればよいと思うのであるが、「うまくいかない原因を特定できればそれを除去できる」と思って固執してしまうケースを良く見るがあまり楽しそうには見えない。逆に「なぜうまくいくのか」あるいは「思いもかけない想定外の良い意味での異常な結果」の真相を解き明かすことは大変楽しいものがある。本会会員の研究者にはこの僥倖が沢山訪れることを念じてやまない。

 

  私事であるが、私は無期分析化学の講座の大学院生として研究者人生を出発した。分析化学という分野には伝統的な学問体系があり、クロマトグラフィーに代表される分離分析法が実試料を測定する手法として強固な地位を確立している。しかし、一方では、分離せずに測定できる簡便な方法としてイオン選択性電極が普及し始めていた。小生のようなものぐさ人間にとって、このような分離システムを必要としない簡便な手法は大変魅力的であると感じていた。そのような時期に、本会の創立に尽力された故鈴木周一先生が東工大を定年退職され、私の講座の教授として着任されたのがバイオセンサに研究をシフトするきっかけとなった。長い研究者人生の中で専門分野や研究テーマをどのように広げ、あるいは転換していったらよいかというのはほとんどの研究者が一度は経験することあろうと思われるが、その意味でバイオセンサのパイオニアであった先生に出会えた私は大変幸運であったと思っている。

 

  本研究会は我が国における化学センサ特にガスセンサとバイオセンサの総本山として大学、国の研究所、企業などの研究者、並びに多くの法人会員企業が集まって形成している組織であり、産業界と学会および独立行政法人の研究所などいわゆる産官学が連携してセンサ開発、実用化に向けて邁進している。このような社会に対して大きな影響と責任を有する化学センサ研究会の会長に就任するにあたり、身の引き締まる思いでいっぱいである。ぜひ会員諸氏のご協力を賜りたいと願う次第である。