Chemical Sensors
Vol. 39, No.4 (2023)

 

Abstracts



巻頭言

高分子検知材料に託す夢

愛媛大学大学院理工学研究科理工学専攻 教授

松口 正信

私が化学センサ研究の世界に足を踏み入れたのは、九州大学大学院の修士課程を修了して、愛媛大学の故酒井義郎先生の研究室に助手として採用していただいたときである。改めて年月を数えてみると、あれからもう40年近くも経とうとしていることに驚かされる。実は私は理学部の出身で、学生時代は油/水界面に吸着した界面活性物質の熱力学的挙動を調べるという、化学センサどころかモノづくりとはまったくかけ離れた研究を行った。今でこそ理学部と工学部の境界はあいまいだが、私が理学部に在籍していた頃は、研究は純粋に自然現象の解明を目的として行われるもので、応用を考える必要はないと教えられた。それがいきなり実用を見据えた化学センサの研究に飛び込むことになり、しばらくはとまどうことも多かった。しかし今思えば、新しい検知材料を探索する地道な研究プロセスにおいて、学生の時に染みついた学理的研究の進め方が大いに役立った。さて、愛媛大学に赴任した当時の酒井先生は、高分子材料を用いた湿度センサの開発に取組まれており、私もその研究に携わることになった。しかし、当初は高分子についても、そして化学センサについてもまったく知識がない状態で、当時は講師であった定岡芳彦先生や大学院生に、化学センサ研究に必要な知識や実験のイロハを教えてもらうことから始め、多くのご迷惑をかけしまって申し訳なかったと思う。
 高分子を用いた湿度センサの研究がきっかけで、検知対象をその他のガス種に広げた後も、高分子検知材料にこだわって研究を続けてきた。その理由として、高分子材料を用いたガスセンサには、無機材料にない利点(分子設計の多様性、常温作動、センサのフレキシブル化の容易さ等)があることを学会などで述べてきた。一方、ガスセンサの開発では無機材料が主流であり、競争相手も多い中、高分子材料を用いることで、自分のペースで独自の研究ができるのではないかと考えたのも本音ではある。しかし、その非主流性ゆえに、化学センサ研究発表会で発表してもあまり関心をもってもらえず、少し寂しい思いをすることもあった。高分子材料を扱っていると、時々高分子は私たち人間と似ているなと思うことがある。私たち人間は、周囲の人々との関わりの中で新たな個性を発揮することが多々ある。高分子の特性も、モノマーの構造から簡単に推定できるものではなく、多数の鎖が相互作用して作る多様な高次構造に大きく影響される。作製条件やプロセスの少しの違いによっても特性が変化するので、なかなか再現性のある結果につながらないことも多い。それだけに、地道にプロセスを最適化し、期待した以上の結果が再現性良く得られた時の喜びは大きい。分子設計やプロセスの最適化にAIを使えば研究の効率は上がるだろうが、苦労の裏返しにある研究の楽しさが失われるような気がするのは古い考えなのだろうか。最近では、導電性高分子を用いてグラフト構造、球状の微粒子、その中空構造など、様々な構造を持つ検知膜を創っている。面白い形状の高分子を作るだけでも楽しいが、そのような構造を創ることでセンサ特性が期待通りに向上したときの喜びはさらに大きい。とは言え、湿度センサを除いて、高分子を主要なセンシング材料とするガスセンサはまだ開発途上であり、実用化にはさらなる特性の向上が必要である。
 世界は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて動きだしている。カーボンニュートラル実現の鍵の一つは、水素をエネルギー源とするさまざまな技術開発である。私の大学教員としての人生もそう長くはないが、2050年の未来に想いを馳せ、高分子材料ならではの特性を生かした水素ガスセンサやアンモニアガスセンサの開発を通じて、水素社会の実現に少しでも貢献できるようもう少し頑張りたいと思っている。

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トピックス

酸化亜鉛ガスセンサの結晶面効果

齋藤 紀子、安達 裕、鈴木 拓

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 電子セラミックスグループ
〒305-0044 茨城県つくば市並木1-1

Crystal Facet Effects in ZnO Gas Sensors

Noriko SAITO, Yutaka ADACHI, Taku SUZUKI

National Institute for Materials Science, Electroceramics Group
1-1 Namiki, Tsukuba, Ibaraki 305-0044, Japan

Zinc oxide has spontaneous polarization along the c-axis, and this polarity affects its properties. This paper describes our group's efforts focusing on polarity and crystal planes of ZnO for gas sensors. The synthesis of ZnO particles with controlled crystal surfaces and their gas sensing properties, ZnO thin films synthesis and the effect of polarity control on sensor properties, and operando surface analysis using single crystals are described. The gas sensor response is related to the adsorption of oxygen and the target gas. The difference in crystal surfaces has a significant effect on sensing properties. We conclude that selection of a crystal plane with high dissociative oxygen adsorption and adsorption of the target gas is important for improving sensor response

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生体内外のドーパミン検出に向けた電気化学センサの開発

阿部 博弥、郭 媛元

東北大学 学際科学フロンティア研究所
〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3

Electrochemical Detection of Dopamine: Approaches for
in vitro and in vivo Applications

Hiroya ABE, Yuanyuan GUO

Frontier Research Institute for Interdisciplinary Sciences, Tohoku University
Aramaki Aza Aoba 6-3, Aoba-ku, Sendai 980-8578, Japan

The precise and sensitive detection of neurochemicals is crucial for unraveling the complex chemical processes in the brain that contribute to its pathophysiology. This review details two advancements in electrochemical sensor technology for the detection of dopamine, characterized by exceptional sensitivity and specificity in both in vitro and in vivo contexts. The first is the large-scale integration (LSI)-based amperometric sensor system, known as Bio-LSI, which is capable of imaging dopamine release from PC12 spheroids with a spatial resolution of 250 µm and temporal resolution in the millisecond range. The second advancement pertains to the creation of aptamer-functionalized microelectrode fiber sensors (apta-µFS). This approach facilitates straightforward, label-free, and highly sensitive detection of dopamine, achieving a detection limit as low as 5 nM, with unparalleled specificity against predominant interferents, and has proven its effectiveness in the living brain. The miniaturized and arrayed electrochemical sensors are now able to locally and quantitatively measure dopamine levels released from living neurons. In the future, targeting more complex neuronal models (in vitro) and long-term monitoring in the brain (in vivo) will further accelerate the development of new drugs and ultimately contribute to the elucidation of brain function and the treatment of various dopamine-related diseases such as Parkinson's disease, schizophrenia, Alzheimer's disease, stress, and depression.

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