Chemical Sensors
Vol. 38, No.3 (2022)

 

Abstracts



巻頭言

トライコーダーを作ろう!

東北大学医工学研究科 教授

吉 信 達 夫

20年ほど前から大学でセンサに関する授業を担当していますが、毎年その初回冒頭で「みなさんはセンサを何個持っていますか?」という問いかけをしています。少し前ですと、リモコンの受光部とかエアコンの温度センサといった答えが一般的でしたが、最近の学生さんの身近でセンサがたくさん使われているものといえば、やはり圧倒的にスマホではないでしょうか。スマホは人間の五感のうち視覚・聴覚・触覚に相当するセンサを搭載していますし、そのほかにも磁気・加速度・温度などさまざまな量を計測しているセンサのかたまりだと言えます。スマホに限らず今後ますます大量のセンサのネットワークが形成されていくのも間違いありません。
 授業では次にセンサの分類の話をします。そこで物理センサ・化学センサ・バイオセンサという言葉が出てきますが、考えてみれば今のスマホに使われているセンサは全て物理センサです。「だから化学センサやバイオセンサにはこれからまだまだ研究することがいっぱいあります!」と宣伝はするのですが、内心では化学センサの研究に携わる者として今のスマホに化学センサがひとつも搭載されていないのはちょっと寂しい気持ちもあります。物理センサが羨ましい気もします。
 では、もし将来のスマホに化学センサが搭載されるとしたらどんなモノになるのでしょうか?そもそも私たちが味覚や嗅覚を持っているのは生存に有利だからに違いないので、身近でそのような感覚を拡張してくれる化学センサやバイオセンサはきっと何かの役に立つはずだと思うのですが、必ずしも明確なイメージがあるわけではありません。最近注目されているように、私たちの身近にあって私たちの健康を日々サポートしてくれるようなデバイスなのかもしれません。
 SFの世界では、「スタートレック」で宇宙艦隊の乗組員たちが持っているトライコーダー(或いはトリコーダー)が「化学センサを搭載したモバイル端末」のイメージに最も近いように思います。トライコーダーはスマホのような形状で、人間にかざせば怪我や病気など体の異常が立ちどころにわかり、新たに降り立った惑星では大気中に有害な成分がないかを瞬時にチェックできるスグレモノです。ただし通話やメールの機能はないようです。測定は非接触で行っているようなので、X線とか核磁気共鳴を使った技術かな?という気もしますが、SFなので原理は何でもありなのでしょう。現実にトライコーダーのような医療機器を開発しようというプロジェクトやコンテストも存在するのだそうです。
 化学センサやバイオセンサは既にいろいろなところで役に立っていますが、モバイル端末との組み合わせに可能性を感じている人はやはり多いのではないでしょうか?スマホ世代の若い方が新しい発想で、私たちの生活をより良くするデバイスを次々と開発してくれる未来が待ち遠しいです。
 ところで冒頭の質問には話の続きがあります。センサの定義は教科書によっていろいろですが、私自身は「システムが必要とする情報を取得するデバイス」という定義がいちばん気に入っています。この定義によれば、私たちの体の感覚器官も私たちの体という「システム」が必要とする情報を取得するデバイスと考えることができます。さらに細胞ひとつひとつを「システム」と考えれば、細胞で働く受容体もセンサと言えます。それら無数のセンサのおかげで私たちは生きています。つまり「みなさんは自分の体の中にセンサをいっぱい持っていますよ」というわけです。

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トピックス

受動型無線通信により駆動する
生体接合型化学センサの開発とヘルスケアへの応用

藤田 創、 藤枝 俊宣

東京工業大学 生命理工学院
〒 226-8501 神奈川県横浜市緑区長津田町4259 B-50

Development of Passive Wireless Chemical Sensors
Toward Healthcare Applications

Hajime FUJITA, Toshinori FUJIE

School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology
B-50, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226-8501, Japan

Wireless chemical sensors play an important role in human healthcare such as continuous glucose monitoring. Among these sensors, passive wireless sensors have a huge advantage in the long-term operation since they do not require the installation of batteries on the devices. In this article, we introduce recent studies on passive wireless chemical sensors and describes how these technologies could contribute to human healthcare.

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形態制御したポリアニリン膜の作製と
アンモニアガスセンサへの応用

松口 正信

愛媛大学 大学院 理工学研究科 物質生命工学専攻
〒790-8577 松山市文京町3

Preparation of Morphology-Controlled Polyaniline Films and
Their Application to Ammonia Gas Sensors

Masanobu MATSUGUCHI

Department of Materials Science and Biotechnology,
Graduate School of Science and Engineering, Ehime University
3 Bunkyo-cho, Matsuyama, Ehime 790-8577, Japan

Ammonia gas is not only a common air pollutant but is also expected to be as an important energy source in the coming hydrogen society. This article demonstrates the development of a simple, low-cost, and non-heatable ammonia gas sensor using polyaniline as a sensing material. Polyaniline has the potential to realize such requirements due to its ease of synthesis, unique doping/dedoping chemistry, stable electrical conduction at room temperature, and good environmental stability. It has been widely reported that developing morphology-controlled polyaniline films with large surface area and good gas diffusivity is an effective way to improve gas-sensing properties. We proposed three different morphology-controlled films: one consisting of nanofibers, another of brushes, and the third of spherical particles. The fabrication method of these morphology-controlled polyaniline and the relationship between the morphology of the polyaniline film and the film’s NH3 gas-sensing characteristics are discussed.

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