Chemical Sensors
Vol. 29, No.4 (2013)
Abstracts
「次の次」の世代に向けて
東京大学生産技術研究所 教授
立間 徹
6年ほど前、街なかから、里山と街の「境目」に引っ越しました。朝起きると窓の外には梅林、その向こうには山の緑が広がります。こうして環境が変わると、目に見えるものもそれまでとは違ってくるようです。私の場合、野鳥に目がいくようになりました。街にいたときは、鳥といえばスズメ、カラス、ドバトくらい。でも里山では、まずシジュウカラやメジロ、ヤマガラに目が止まり、身近にこんなきれいな鳥がいるのかと、驚きました。 2、3年経つうちに、さらに興味が出てくると、それまで見えていなかった鳥にも気づくようになります。速すぎてよく見えなかった鳥がツバメだとわかったり、スズメにしか見えなかった鳥がヒバリやホオジロだと判別できたり。オオタカやアオサギ、カルガモが上空を横切っているのに気づき、ツグミやジョウビタキの去来に季節を感じるようにもなりました。今では年間、40種類近くの鳥を部屋から見ることができます。実は街なかにもいろんな鳥がいるのだと、わかるようになりました。
科学にしても同じだと思うのです。子供や中高生が、本物の科学に触れることで興味を持てば、身の回りに科学があふれていることに気づき、もっといろいろ触れたいと思い、やがては自分で取り組みたいと思うようになるのではないでしょうか。そうすれば、数値目標など定めずとも、女性科学者の数も自然と増えていくかも知れません。
電気化学会が80周年を迎え、記念企画として「中高生に向けた電気化学の啓蒙書」を出版することになり、その「まとめ役」を仰せつかりました。メンバー5名が1年半をかけ、手弁当で会議を重ねながらまとめた「電池はどこまで軽くなる?-くらしを支える電子とイオン」(電気化学会編、丸善出版)です。今号がお手元に届く頃には、出版されている予定です。タイトルは中高生にも身近な「電池」としましたが、実際には電解、さび、センサなど、いろんな話が出てきます。中高生でなくても、電気化学を取りまくものごとの本質や、全体像をつかむのに役立つのではと、思っています。
中高生の目にどう映るかを想像しながらの執筆・編集は、困難ながらも楽しい作業でした。彼らに少しでも楽しんでもらい、理系のすそ野を一人でも増やせるのなら、と。「電気化学とその周辺」という縛りや、学会事業ならではの制限もありましたし、反省点も多々ありますが。
本書の成否はともかく・・・、私たちの多くは、研究や開発を主な仕事としていて、教育をするにしても、大学生や大学院生、プロの研究者や技術者が対象、という方がほとんどでしょう。けれど、その次の世代を育てるためには、私たちが日々取り組んでいる「本物の研究」を、平易なことばと画像をつかって発信していくことが大切なのだと、あらためて思い直しました。本でもインターネットでも講演でもかまいません。私たちがほんの数パーセントの時間でもそうしたことに費やせば、その分だけ、日本の科学技術の未来が、明るくなっていくのではないでしょうか。
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トラックエッチ膜フェルター電極を用いるフロー型電気化学分析法の開発
水口 仁志
東京農工大学・生物システム応用科学府
山形大学・大学院理工学研究科・バイオ化学工学専攻
〒992-8510 山形県米沢市城南4-3-16
Flow-based Electroanalytical Systems Fabricated Using
Track-etched Microporous Membrane Electrodes
Hitoshi MIZUGUCHI
Graduate School of Bio-Applications and Systems Engineering,
Department of Biochemical Engineering, Graduate School of
Science and Engineering, Yamagata University
4-3-16, Jonan, Yonezawa, Yamagata 992-8510
This article reviews novel electroanalytical systems fabricated using track-etched microporous membrane electrodes. The electrodes were prepared by sputtering platinum or gold onto both sides of the membrane filter which contain a smooth flat surface as well as cylindrical pores with uniform diameters. In this case, the sample solution flows through the pores of the electrode. Efficient electrolysis is occurs during passage of the sample solution through the electrode. Various electroanalytical systems can be built merely by piling the electrodes, which have a 10 μm thickness. In this paper, a dual-electrode flow system, anodic stripping voltammetry for ultra-trace determination of inorganic mercury(II), and an amperometric glucose biosensor were described.
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顕微ラマン分光法による生細胞の in vivo 分子イメージング
安藤 正造、濱口 宏夫
早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構
〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町513
台湾国立交通大学分子科学研究所
〒30010 台湾新竹市大學路1001
Raman Microspectroscopy for
In Vivo Molecular Imaging of Living Cells
Masahiro ANDO, Hiro-o HAMAGUCHI
Consolidated Research Institute for Advanced Science and Medical Care,Waseda University
513 Wasedatsurumaki-cho,Shinjuku-ku, Tokyo, 162-0041 Japan
Department of Applied Chemistry and Institute of Molecular Science,
National Chiao Tung University
1001 Ta Hsueh Road, Hsinchu, 30010 Taiwan
This article shows the power of Raman microspectroscopy for sensing structure and dynamics of functional biological molecules in living cells and tissues. Two examples are shown for cyanobacteria and white blood cells. Deep near-infrared excitation at 1064 nm enables the observation of high S/N Raman spectra and their distribution in a single cyanobacteria cell. Multivariate curve resolution analysis is shown to be highly useful for obtaining physically sound spectral and spatial information from the observed many complicated Raman spectra of white blood cells.