Chemical Sensors
Vol. 28, No.3 (2012)

 

Abstracts



巻頭言

異分野交流、産学連携の勧め

筑波大学 数理物質系 教授

鈴木 博章

昨年、医学系の先生方と工学系の関係者が集まり、バイオセンサ、バイオ MEMS の医学への応用可能性について懇談会を開催する機会があった。その際、 医学系の先生方から出た発言はショッキングなものであった。「そんなものは誰 も必要としていません。迅速・簡便・携帯可能などナンセンス。現状の分析技 術で間に合っています。待っていれば結果は出ます。」もちろん、これとは正反 対のコメントをされる先生方も多数おられるので、「お先は真っ暗だ」などと無 意味な絶望をする必要はないが、①どういう人たちが何を必要としているのか、 ②どれだけの数の人が必要としているのか、についての正確な情報、出口の明 確化は重要であろう。企業関係者はもちろんであるが、大学関係者であっても、 化学センサという現実的、実用的なテーマに関わっている以上、インパクトの ある研究を行おうとするのであれば、この点は常に頭に置くべきである。基礎・ 応用に関わらず、必要としている人が多ければ、影響が及ぶ範囲が広くなる。これは大学関係者であれば気になる論文の引用数にはっきりと表れてくる。もちろん現実的な話ばかりでは研究に夢や面白みがなくなってしまうので、ある程度の比率で将来的な話も入れた方が研究は活性化すると思うし、自分自身、何の役にたつのかと言われて答えられないテーマも抱えている。

では、情報をどのように得るかであるが、すぐにできることとして、インターネット等で情報を集めることが考えられる。しかし、情報爆発の現代において、一見容易に思われるこの方法でも、逆に手間がかかり、正解にたどりつくのは容易ではない。結局、自ら動いて周辺の関連分野の専門家の話を直接聞くのが最も確実である。異分野の研究者との議論で得ることは多い。議論を通じ、化学センサはこんなところにも使えるのか、こんなに役に立つのかと感動し、自らが関わってきた分野の重要性を再認識することも多い。その反面、しばしば驚くのは、化学センサ技術が意外に他分野に浸透していないことと、これらの分野のニーズと化学センサの最先端技術とのギャップである。意気投合して共同研究を始めましょうということになる場合も多いが、テーマ的には、最近の化学センサ研究発表会には出しにくい古い技術がむしろ重宝されることが多い。しかし、先方はそれで必ずしも満足しているわけではなく、最先端技術にも魅力を感じていて、段階的に高度化して行きたいという話は必ず出てくる。言い換えれば、周辺の関連分野には、化学センサ関係者が気づいていないインパクトがあり、面白いテーマが潜在的にごろごろと転がっている可能性がある。

しかし、ある程度は個人的に動き回るにしても、大学関係者には必ずしも十分な体力や時間的な余裕があるわけではない。やはり情報収集には企業との連携が不可欠である。私の研究室のテーマの中には、企業からニーズ情報がもたらされ、共同研究に発展したものが少なからずある。最初は「えっ、こんなことに使うの?できるかなあ?」という感じであるが、成果としてまとまってくると、結構反響が大きいものが多い。これは産学いずれにとってもうれしい話である。近年各地でよく産学連携研究会が開催されるが、常々不満に思っていることがある。それは情報の流れが学(および独)から産への一方通行になりがちな点である。もちろん個別にはお見合い成立の成果もあるとは思うが、企業が次に何をしたいのか、大学にどういう技術を求めているのか、についての情報の流れが非常に細い。手の内を見せたくないということもあるのであろうが、もう少し企業が気軽かつ活発に大学に情報を投げられ、新興国には真似できない独自技術を創出できる新たなしくみを考えても良いのではないかと思う。我が国の産業界の将来を憂えている人も多いであろうから。

To Japanese Contents / To English Contents


トピックス

医療現場で使うことを目指したチップ型電気化学バイオセンサ

井上(安田)久美

東北大学マイクロシステム融合研究開発センター
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11-605

Development of Chip-Type Electrochemical Biosensors for Clinical Use

Kumi Y. INOUE

Micro System Integration Center (μSIC), Tohoku University,
Aramaki 6-6-11-604, Aoba, Sendai 980-8579, Japan

Chip-type electrochemical biosensors are effective devices in point-of-care-testing, as the self-monitoring blood glucose sensors are widely used. This paper describes my research topics about developments for chiptype electrochemical biosensors currently in progress. One is endotoxin sensors. We found that the sandwich assay using Polymixin B and cell-based reporter assay are not practical because of the poor reproducibility and labor-intensive operations. On the other hand, electrochemical Limulus amebocyte lysate (LAL) assay using conventional endotoxin test reagent prepared from horseshoe crab blood was shown to be sensitive and reproducible results which can provide low-cost, compact, easy-to-use practical sensor. The other is Bio-LSI. Bio-LSI has 400 measurement points on a 10.4 mm ×10.4 mm LSI chip with a wide dynamic range from ±1 pA to ±100 nA. Bio-LSI provides a platform for electrochemical real-time imaging as well as simultaneous multiple analyses including DNA assay. Bio-LSI has a potential for wide applications to the fields of medical and bioscience, including an observation system for neurotransmitter related to brain diseases and drag screening system for tailor-made medicine.

To Japanese Contents / To English Contents


スラブ光導波路分光法による紫外可視吸収スペクトルを用いたITO 電極とチトクロームc の電子移動反応のその場観察

松田直樹、岡部浩隆

産業技術総合研究所 生産計測技術研究センター
〒841-0052 鳥栖市宿町807-1

In situ Observation of Direct Electron Transfer Reaction of Cytochrome c Adsorbed on ITO Electrode with Slab Optical UV-Visible Absorption Spectroscopy

Naoki MATSUDA, Hirotaka OKABE

Measurement Solution Research Center,
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
807-1, Shukumachi, Tosu, Saga 841-0052, Japan

Cytochrome c is the most extensively studied protein because of their unique functionalities about electron transfer (ET). ET reaction of cytochrome c is slow, thus direct electron transfer (DET) reaction between proteins and electrodes is rarely observed. We have invented slab optical waveguide (SOWG) spectroscopy by which in situ observation of UV-vis. absorption spectra from adsorbed molecules on solid/liquid interfaces under monolayer coverage can be performed. As a great advantage, SOWG spectral change can bring us molecular functionality. In this presentation, we will report DET reaction of cytochrome c adsorbed on ITO electrode by SOWG spectral change due to electrode potential scan, and that cytochrome c adsorbed on ITO electrodes kept ET activity. Without addition of any promoters or mediators, and surface modification.

To Japanese Contents / To English Contents