Chemical Sensors
Vol. 27, No.4 (2011)

 

Abstracts



巻頭言

特異的であること

神奈川工科大学教授

佐藤 生男

本欄に寄稿する機会に恵まれた。およそ10年ぶりのことである。想うところを、つづってみたい。現在、我が電気化学会は公益法人への移行を目指して、着々と歩んでいる。移行後には、会員数も5千人を越える見込みである。本会および本研究会の隆盛を天の高所からご覧の、研究会設立の労を取られた、清山哲郎・塩川二朗・笛木和雄・鈴木周一各名誉教授(故人)はさぞかし、感慨深く感じておられることと察する。我ら団塊の世代の者は、定年を間近に控えている。小生自身は大した学術的貢献を果たせていない。それでもこの16年間余り、本部に詰め、理事や委員として務めることで何がしかのことに関われたかなと考える。

1970年代の初期、鈴木教授の指導下で、バイオセンサの研究に携わるようになり、フローインジェクション(Flow Injection)技術を縦糸に、各種物理化学計測法を横糸に取り、生物化学計測に従事してきた。本研究会に参加した頃より、センサ用の素子候補として、重金属イオンが触媒活性の鍵を握る金属酵素を取り上げた。この酵素の活性部位(触媒部位)に配位、結合した重金属イオンを除去すると、触媒活性の欠けたタンパク質(「アポ酵素(Apoenzyme)」と呼ばれる)が得られる。アポ酵素は、特定の重金属イオンに対する鋳型として機能し、微量計測における識別素子として利用できる事を例証して来た。勝手ながら、本酵素の固定化物を適用したセンシング素子を、「アポ酵素センサ」と名付けた。同時にまた、簡易式の精密カロリメーターを用いた計測法に対し、「フローインジェクションカロリメトリー(Flow-Injection Calorimetry)」という用語を提唱した。

さて、21世紀に入り、バイオテクノロジーの時代と呼ばれるようにもなり、その応用が特に着目され、エネルギー変換や精密・特異的計測、遺伝子操作、再生医療等の分野における進展がいずれも予期されている。細胞の分化では「アポトーシス(細胞の自己死)」という用語が鍵を握るようになり、いずれにしても「アポ」という接頭語が雑誌、新聞、教科書などで目につくようになって来た。本務先における任期も6年間余りとなったが、何とかこれらの計測方法やセンサの普及に務めたい所存である。

ところで、化学センサ研究発表会では、学生諸氏の口頭発表にいささか気になることがある。溶液系での分析、計測ではモル濃度(M=mol/dm3)という単位が頻繁に登場し、使われる。この単位の読み方が気になる。モルあるいはモラー(特に「ラ」を強く発音している)と呼ぶ場合が多いようである。だが、英語では「molar」なのであるからして、「モーラー」と呼ぶ事が相応しいのではないか?因みに、SI単位系の普及が著しく謳われた頃(1980年代)には、機関誌「電気化学および工業物理化学」の当時の大滝編集委員長が、略号のMを論文内で使用する際には、M=mol/dm3と、最初に断るべきだと、「展望」欄に記載されたことを思い出す。化学センサ研究会並びに電気化学会のますますの発展を見るにつけ、我々世代の果たすべき課題の一つは若手世代の育成であろう。話が私事に小事に流れた。しかし、研究発表会のように直接討論することが可能な場においては、このようなこともおろそかにせず、きちんと正すべきではないだろうか。

センサに関わったことのある方は、一度でも「千差万別」という言葉を耳にした事があると思う。種々多様な化学センサが存在する世になった。汎用的計測原理並びに基質選択性に富むという性質を併せ持つ、特異的センサの開発を通じて、化学センサ研究会のさらなる進展に何とか寄与できたらと思う次第である。

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トピックス

走査型イオンコンダクタンス顕微鏡を用いた生細胞表面の評価

高橋 康史

東北大学原子分子材料科学高等研究機構
〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1

Evaluation of Cell Surface Function
Using Scanning Ion Conductance Microscopy

Yasufumi TAKAHASHI

Advanced Institute of Materials Research, Tohoku University
Katahira, Aoba 2-1-1, Sendai 980-8577, Japan

Low-concentration microsubstance detection technology is aspired in various fields of application, particularly in medical technology, pharmacy, and environmental sciences. Clinical consultations require the identification of substances causing a symptom. It is also necessary that lifestyle diseases be detected before they develop. As is apparent from the recent pandemics of H1N1 influenza, it is important to promptly detect viruses and pollutants harmful to humans or livestock on site so as to eliminate them and prevent their spread. The sensor used for such detection must be highly sensitive, precise, easily transportable, easy-to-use, and inexpensive. In the present research, we have developed a high-performance molecular detection sensor that utilizes waveguide modes as a basic technology. We successfully obtained sensors that satisfy the requirements by applying nano-perforation technology and originally developed sensing plates.

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