Chemical Sensors
Vol. 27, No.1 (2011)
Abstracts
センサ研究開発の意義
化学センサ研究会 会長
(埼玉工業大学 学長)
内山 俊一
現代はさまざまな高度先端科学技術が人類の幸福をもたらす時代になったといえる。先端技術の中でも計測技術の進歩は目覚ましいものがあり、その中でも地球温暖化などのグローバルな環境問題や局所的な公害問題の解明やそれらの解決および作業環境などの適切な維持管理において、さまざまな物質の検出や濃度測定を行う化学センサの技術開発が極めて重要な役割をはたしていることは言うまでもない。また、これまでセンシング技術の需要の観点から、有毒あるいは危険な物質の検出、定量などに力点が置かれてきた感があるが、センサの現代的な意義という観点からは健康問題に直結しないまでも人間が生きていくうえでの快適性(アメニティ)を追求していくことが生活の質を高めるに当たって重要と考えられ、匂いや味などのセンサ技術の開発も極めて重要であることは容易に理解されるところである。その意味で将来的には、これらの人間の五感に代わるセンサ技術の開発は理工系の分野のみならず心理学や生理学などの広範な科学のコラボレーションが必須となっていくであろうと思われる。研究開発の面から言うと、画期的かつ独創的なセンサ技術の開発は研究者個人の着想、創意工夫によるところが大きく研究者冥利につきる学問分野の一つであり、バイオセンサを専門としてきた小生の若かりし頃の思いを改めて思い起こしてみると将来のある若い世代の有為な人材がその魅力に取り付かれてセンサ開発が進歩していくことを強く望むものである。ここで少し、センサ研究開発の楽しさに触れてみたいと思う。以前から強く感じていることであるが、研究成果を生むにはポジティブな思考、感性が大変重要に思える。学生たちの研究の進め方を見て思うのであるが、往々にして彼らは「なぜうまくいかないのか」を追求してしまう傾向があるような気がしてならない。うまくいかないのであれば他の方法なりに切り替えればよいと思うのであるが、「うまくいかない原因を特定できればそれを除去できる」と思って固執してしまうケースを良く見るがあまり楽しそうには見えない。逆に「なぜうまくいくのか」あるいは「思いもかけない想定外の良い意味での異常な結果」の真相を解き明かすことは大変楽しいものがある。本会会員の研究者にはこの僥倖が沢山訪れることを念じてやまない。
私事であるが、私は無期分析化学の講座の大学院生として、電気分析化学、特に電気量を測定するクーロメトリーの開発をテーマとする分析化学を専門として研究者人生を出発した。分析化学という分野には伝統的な学問体系があり、クロマトグラフィーに代表される分離分析法が実試料を測定する手法として強固な地位を確立していた。しかし、一方では、分離せずに測定できる簡便な方法としてイオン選択性電極が普及し始めていた。自分のようなものぐさ人間にとって、このような分離システムを必要としない簡便な手法は大変魅力的であると感じていた。そのような時期に、本会の創立に尽力された故鈴木周一先生が東工大を定年退職され、私の講座の教授として着任されたのがバイオセンサに研究をシフトするきっかけとなった。長い研究者人生の中で専門分野や研究テーマをどのように広げ、あるいは転換していったらよいかというのはほとんどの研究者が一度は経験することあろうと思われるが、その意味でバイオセンサのパイオニアであった先生に出会えた私は大変幸運であったと思っている。
本研究会は我が国における化学センサ特にガスセンサとバイオセンサの総本山として大学、国の研究所、企業などの研究者、並びに多くの法人会員企業が集まって形成している組織であり、産業界と学会および独立行政法人の研究所などいわゆる産学官が連携してセンサ開発、実用化に向けて邁進している。このような社会に対して大きな影響と責任を有する化学センサ研究会の会長に就任するにあたり、身の引き締まる思いでいっぱいである。ぜひ会員諸氏のご協力を賜りたいと願う次第である。
To Japanese Contents / To English Contents
蛍光増強を利用した免疫測定法の開発
小川 武人1、酒井 清孝2
1 川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床工学科・講師
〒701-0193 岡山県倉敷市松島288
2 早稲田大学 先進理工学部 応用化学科・教授
〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
Development of Fluorescence-Enhancement Immunoassay
Takehito OGAWA1 and Kiyotaka SAKAI2
1 Department of Medical Engineering, Kawasaki University of Medical Welfare
288 tsushima, Kurashiki, Okayama 701-0193, JAPAN
2 Department of Chemical Engineering, Waseda University
3-4-1 Okubo, Shinjuku, Tokyo 169-8555, JAPAN
A handy bioassay without special device or cumbersome procedures is ideal for a preliminary diagnosis in local clinics or home healthcare. We have thus designed a "fluorescence-enhancement assay". The assay uses bioreceptors labeled by a fluorescent reagent, with its fluorescent intensity enhanced by specific binding to the target molecule. Unlike conventional immunoassays, this method does not require separation of free receptors from bound ones. Only few simple steps are then required. We investigated a single-step and reagentless analysis for plasma or blood constituents by using fluorescence-enhancement assay. We successfully measured the fluorescence enhancement of fluorescence-labeled protein A caused by the binding with immunoglobulin G in whole blood. Therefore, this new method may be applicable to various biological samples.
To Japanese Contents / To English Contents
抗体超分子錯体を用いた特異的バイオセンシング
山口 浩靖、原田 明
大阪大学大学院理学研究科 高分子科学専攻
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-1
Specific Biosensing with Supramolecular Complexes of Antibodies
Hiroyasu YAMAGUCHI and Akira HARADA
Department of Macromolecular Science
Graduate School of Science, Osaka University
1-1, Machikaneyama, Toyonaka, Osaka 560-0043, Japan
This paper introduces specific detection methods for target molecules with supramolecular complexes of antibodies. We have prepared monoclonal antibodies, which can bind a toxic compound (viologen), and dyes (porphyrins), respectively. These monoclonal antibodies were found to have a high potential for the specific detection of target molecules. An amplification method of the detection signals for a target molecule has been devised by using the signal enhancement in the supramolecular assembly of antibodies with divalent antigens. Target substrate added to the flow cell of biosensors based on surface plasmon resonance (SPR) can be detected by monitoring the total amount of the antibody bound to the surface of the sensor chip. The sensitivity of this system was found to be two orders larger than that of the simple addition of target substrate to the antibody immobilized on the surface of the sensor chip. Dendritic antibody supramolecules were designed and prepared by using IgM as a core and chemically modified IgG as branches. Many binding sites of IgG were arranged radially on the surface of one object, the resulting artificial antibodies bound antigens more selectively than IgM and more strongly than IgG.