Chemical Sensors

Vol. 14, No. 2 (1998)


Abstracts



化学センサと私

安原  光br>
(株)フジクラ 電子デバイス研究所所長

Chemical Sensor and Myself

Hikaru YASUHARA

Fujikura



 学生時代からずっと電気系を専門としてきた自分は化学センサには門外漢である.数年前からセンサとして,酸素センサ,圧力センサにかかわってきた以降も,センサを研究開発の対象としてみているが,同時により事業的な立場でみることが多い.実際のところほとんど研究には携わっていない.ところで当社のような製造会社では,開発の最終目標はそれが事業化できるかどうかにある.技術屋としてはどうしても興味あることに集中し,現象として新しい発見に心を奪われる.勿論これがなければどうしようもないが,最後には物として完成して,会社の事業の糧にならなければならない.開発テーマの選択としてニーズとシーズの議論も良くあるが,自分はニーズ優先である.企業では,どんなに良いテーマで開発がうまくいっても,商品にならない限りいつかは消えてしまう.煙のないところに火はたたず,と言うが,ニーズのないところに開発は無い,である.
 当社のように長らく電線製造一貫でやってきた会社が,何をもって新規事業としていこうかと検討した今から10年以上も前に,勉強すべき事は半導体という結論になった.これのとっかかりとして,圧力センサの開発を始めた.当時のニーズは通信用多対ケーブルのガス保守用であった.同じように,酸素センサの開発は当時の顧客である電電公社からの要請で始まった.地下の洞道内での酸欠モニタが必要であるということであった.いろいろ調べたが,固体電解質を利用したものが良かろうということになり今に至っている.ジルコニアを使用しているが,材料としては半導体の範疇に入れても良いと思っている.固体電解質としての性質や,その挙動を説明するさいは,通常の半導体同様ジルコニア内での電子の動きの解明が必要になる.一方,圧力センサはシリコンチップ上に形成するため,必然的に必要な電子回路と一体化した集積化センサになってきている.化学センサもかなりの物が,シリコンチップ上に構成できる可能性がある.そうすれば,化学センサのもつ欠点をチップ上での電子回路で補い,より使いやすくできる.センサは将来的には,センサそのものと信号処理機能や通信機能を具備し,場合によりアクチュエータと一緒になると思っている.こうなってくると,化学センサという言葉でもって対象をある範囲に縛ってしまわずに,もっと広い範囲を現す言葉がほしい.圧力センサはいわゆるマイクロマシンとの関係が深いが,マイクロマシンも最近は,MicroElectro-Mechanical Systemと称しMEMSと言われるようになってきた.当化学センサ研究会も電気学会等電気系の学会とかかわりを深くしているのはやはり理由がある.今後は,当研究会の研究会活動として研究と併せて開発的な要素も深め,製造会社との関わりも強くして,さらに発展していくことを期待している.


バイオセンサー

安斉 順一,小林 由佳,星 友典

東北大学薬学部
〒980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉

Chemical Sensors 1997 - Biosensors

Jun-ichi Anzai, Yuka Kobayashi, Tomonori Hoshi

Faculty of Pharmaceutical Sciences, Tohoku University
Aramaki, Aoba-ku, Sendai 980-8578, Japan

 1997年に発表されたバイオセンサー関連の論文等を以下に紹介する.バイオセンサーおよび関連する分野の研究論文は多岐にわたり報告数も非常に多く,すべてを網羅することは困難である.本稿ではできるだけ多くの読者に有用であろうと思われる文献を中心に紹介する.



酵素・メディエーター電気化学反応のサイクリックボルタンメトリー・シミュレーション

横山 憲二

北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科
〒923-1292 石川県能美郡辰口町旭台1-1

Cyclic Voltammetric Simulation for Electrochemically Mediated Enzyme Reaction

Kenji Yokoyama

School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology
Tatsunokuchi, Ishikawa 923-1292, Japan

1.はじめに
 Nicholson and Shain1)がサイクリックボルタンメトリー(CV)に関する理論的な取り扱いを発表して以来、CVは反応速度を解析する方法としても応用されてきた。この論文の中で彼らは、単純な電極反応だけでなく、後続均一系一次反応を伴う電気化学反応のシミュレーションを行っている。この系はこれまで、電子伝達メディエーターを介した酵素反応を解析する際に用いられてきた。しかし、酵素反応は単純な一次反応ではないので、この解析法を用いることができる系は限られている。すなわち、十分に高い基質濃度かつ希薄なメディエーター濃度の場合だけである。さらに、この解析で得られるパラメーターは、擬一次反応速度定数すなわちkcatCE/KMMである。 ここでkcat、CE、KMMはそれぞれ酵素のターンオーバー数、酵素濃度、メディエーターに対するMichaelis定数である。また、kcat、KMMは個々に決定することができなかった。
 そこでわれわれは均一系酵素反応を伴う可逆および準可逆の電気化学反応のシミュレーションを行った。ここで用いたデジタルシミュレーションの方法はBritz2)が確立したExplicit Finite Difference(EFD)法と呼ばれるもので、RudolphやFeldberg3)が開発したFast Implicit Finite Difference(FIFD)法に比べて計算速度は遅いが、プログラミングが容易である。今日のコンピューターテクノロジーの発展のおかげで、EFD法による計算でも十分に速く、全く不便を感じない。われわれはこのシミュレーションの中で、メディエーターだけでなく、電極近傍における基質の濃度分布も考慮した。従って、高い酵素濃度、高いメディエーター濃度においても、正確なCVシミュレーションが行えると考えられる。さらに、このCVシミュレーションを用いて、酵素反応速度定数の決定を行った。KMM、kcat、基質に対するMichaelis定数KMSを酵素、メディエーター、基質濃度を順次変えることにより決定した。





固体電解質を用いたガスセンサ
- アンモニア,二酸化窒素センサ -

今中 信人

大阪大学大学院工学研究科物質化学専攻
〒565-0871 吹田市山田丘2-1

Gas Sensor Based on Solid Electrolytes - Ammonia, Nitrogen Dioxide Sensors -

Nobuhito Imanaka

Materials Chemistry, Division for Research of Engineering Graduate School, Osaka University
2-1 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan

The NH4+-Ga2O3 solid electrolyte was obtained by ionically exchanging K+, Rb+ in (K+, Rb+)-Ga2O3 for NH4+ in NH4NO3 melt. A compact type ammonia sensor was constructed by the combination of the ion exchanged NH4+-Ga2O3 and anhydrous rare earth (Pr, Nd) ammonium sulfate as a solid electrolyte and a solid reference electrode, respectively. The sensor's output was in excellent agreement with the relation calculated from the Nernst equation and the response was accurate and reproducible for the NH3 detection.
For the selective NO2 sensing, various types of sensor element were fabricated by mixing nickel oxide and copper oxide with rare earth oxides. Among those, the element with scandium oxide was demonstrated to respond selective to NO2 with high sensitivity. By changing the sensor's element from the bulk to the film shape, the response and the sensitivity were improved.
1.はじめに
 アンモニアは大気汚染防止法においては特定物質に,また,悪臭防止法では悪臭物質に指定されている毒性ガスである.工場等では多くの工業作業者がアンモニアに暴露される危険性を常に有し,その防御対策の優劣が人命をも左右する.一方,大気汚染の元凶物質の一つである窒素酸化物は硫黄酸化物と比較して移動発生源からの排出量が多く,個々の排出源からの排出量を極力抑えることが急務となっている.排ガス中の窒素酸化物は大半が一酸化窒素(NO)であるが大気中では二酸化窒素(NO2)となる.排出源からの監視にはNOを,また,大気中でのモニタリングにはNO2を正確に検出し,発生源からの排出量を監視し,雰囲気中の濃度を計測して直ちにフィードバックすることが最も有効な手段である.そのため,小型で安価,かつ,高選択的な窒素酸化物センサの開発が強く望まれている.ここではアンモニアセンサ,二酸化窒素センサに関する我々の最近の研究成果を紹介する.




第16回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム

(‘98年6月3〜4日 於 川崎市産業振興会館)

生命工学工業技術研究所    水谷 文雄


The 16th Sensor Symposium

Fumio Mizutani (Res. Inst. Biosci. & Human-Tech.)

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