Chemical Sensors
Vol. 14, No. 1 (1998)
Abstracts
バイオセンサとバイオ素子
水谷 文雄
生命工学工業技術研究所・研究室長
Biosensors and Biochips
Fumio MIZUTANI
Nat'l Inst. of Biosci. & Human-Technol.
十数年前,電気化学,生物物理,界面化学等の広い分野の研究者の間で「カーター・ショック」なる言葉がささやかれた.カーター元米国大統領ならぬ米国海軍研究所のF. L. カーター博士が,機能分子をつなげて電子回路を作ろうとの概念を大々的に打ち出した.例えば,ドナー性の分子とアクセプター性の分子をつなげ,さらに導電性の分子鎖を取り付ければ配線を半田付けしたダイオードのミニチュアの出来上がる.このような分子「素子」を組み合わせれば分子オーダーの集積度のICもでき,さらには卓上型のスパコンもできあがろうということになる.我が国でもカーター博士の流儀によって「ひょっとしたら何かができるかもしれない」,「何はともあれ研究予算は獲得できそうだ」と,眉に唾をつけつつ走り回る人たちが現れた.この研究者を走り回らせたmotive forceを,カーター・ショックと呼ぶようになった.小生も,その回りでウロチョロしていた1人であった.
そのころ,分子素子よりもっとわかりにくいバイオ素子"moleton"の絵が種々の総説の中に現れた.幾つかのタンパク質分子が積み重なったものが基板上に並び,所々にバネのような形をした分子がくっついている絵であるが,提案者のMcAlear博士以外の誰も素子の作動原理を理解できないと言う代物であった.
バイオ素子の機能云々の前に,当時は,素子を作製するのに十分なパーツも,作製手段も,極めて不十分なものであった.遺伝子工学によりパーツとなる機能タンパクを合成しようと言っても,遺伝子工学の手法自体が研究の対象となっていた時代であったし,このパーツを並べる方法もLB法が唯一に近い方法であった.さらに素子との信号の授受を行うための手段も全くなかった.
一方,現在ではこれらの手段はすでに我々の手中にあると言って良い状況にある.遺伝子工学は分子改変のtoolとして定着した.タンパク質を含めた分子配列法として自己組織化法が活発な研究の対象となり,混合自己組織化膜でのナノドメインの形成等,基板上のパターニングに利用し得る現象も見いだされている.さらに,走査型プローブ顕微鏡の進歩により,分子オーダーの微小領域での信号授受も可能となってきている.さらに,木下教授(慶応大学)ら単一分子の蛍光の測定,A. J. Bard教授らによる単一のRedox分子の電気化学挙動の追跡等に見られるように,一つの分子の振る舞いを検知できる高S/N比の信号計測も可能となっている.
このようなバイオ素子開発への基盤技術は,既に化学センサ関連分野の研究者の間でセンサ構築技術等として利用され始めている.最近の化学センサ研究発表会の資料中にも,遺伝子工学的に固定化のためのアンカー分子を取り付けたタンパク質のセンサへの利用等の報告も見られる.また,自己組織化法のセンサ構築への利用も活発に行われている.このような研究の中で,「どんな機能素子になるかはわからないものの,面白そうなバイオ素子」が産まれるのではないか,そしてやがてそれが21世紀の技術を支える柱の一つになるのではないかと期待している.
さて,一つ面白そうな素子構築を夢見つつ実験台に向かうとでもするか・・・.
生物機能の未利用機能に着目したバイオセンサーに関する研究
碇山 義人
国立身体障害者リハビリテーションセンター
〒359-8555 埼玉県所沢市並木4−1
A Study on the Biosensors focused on the Nonutilized Biofunctional Molecules
Yoshihito Ikariyama
National Rehabilitation Center for Disabled
Namiki 4-1, Tokorozawa, Saitama 359-8555, Japan
I feel highly honored to receive the Seiyama Prize for my works on the new sensing approaches using biomolecules such as enzymes, antibodies, and nucleic acids, whose biofunctional properties had not been utilized yet. I am convinced that most of those works led many contemporary workers. Among these works, (1) A new biosensing based on chemiluminescence and bioluminescence, (2) A design of new receptor utilizing subtle difference in bioaffinity between analytes and their analog compounds and its application to the biosensing of vitamins and its hormones, (3) New developments of transducers and their application to highly sensitive biosensors, (4) Genetic breeding of fused production of marker proteins for the element of biosensor and biomonitor, and (5) Audiovisualized blood glucose sensor for the patients with diabetic retinopathy, are the examples which have been achieved by the above approaches.
These works are accelerating intelligence of biomolecules, and are opening new fields in bioelectronics as well as biosensing.
第一回清山賞に,これまでの行ってきた酵素,抗体,核酸などの生体関連物質が有する多様な機能を計測システム化する一連の研究に対し与えられたことは大変に光栄である.そのうちバイオセンシングシステムに関する新しい仕事は生体分子の未利用機能を発現させるものであり,常にバイオセンサーに関する研究を先導してきたものと考えている.なかでも,(1)化学発光・生物発光に着目した新しいバイオセンシング法に関する研究,(2)生物親和性の差異を巧みに利用したビタミン,ホルモン類を計測化するためのレセプター設計とバイオセンシング法に関する研究,(3)新規トランスデューサの開発による高機能バイオセンサーに関する研究,(4)分子育種技術を用いた新規ハイブリッド分子の産生とそのバイオセンサーエレメントとしての展開に関する研究,(5)糖尿病性網膜症患者のための音声化血糖値センサーに関する研究の5種類のアプローチは,これまでに開発した生体関連物質の未利用機能の発現化技術によって初めて実現されたものである.これらの研究は,生体分子のインテリジェント化を促進し,バイオエレクトロニクス素子,バイオセンサーに新分野を拓きつつある.以下主な研究業績の概要を紹介する.
ISFETによるpHセンサの開発と実用化
伊藤 善孝
新電元工業(株) 研究開発センター
〒357-8585 埼玉県飯能市南町10-13
Development of ISFET and pH Sensors
Yoshitaka Ito
Shindengen Kogyo, R & D Center
Hanno-Shi, Saitama-Ken 357-8585, Japan
The ion sensitive FETs (ISFET), without a reference electrode, proposed by P. Bergveld in 1970 and with the reference electrode by T. Matsuo in 1971 after the T. Seiyama's works in 1962. The 1970s marked important findings and proposals. The planar ISFET, mass production and non drift Ta2O5 film for pH sensor were developed by Y. Ito at Shindengen. Using the device, the compact ISFET-pH meters had much commercial success in the world. In the field of chemical sensors, it was found that silicon-based chemical sensors were not as easy as anticipated. In addition to the advances by the silicon IC technology, reliability, stability and low-cost devices are also holding the important key at commercialization of silicon chemical sensors.
第26回化学センサ研究発表会
('98年4月4〜6日 於 東京工業大学大岡山キャンパス)
九州工業大学工学部 清水 陽一
愛媛大学工学部 青野 宏道
NTT入出力システム研究所 河西 奈保子
生命工学工業技術研究所 矢吹 聡一
国立身体障害者リハビリテーションセンター 外山 滋
The 26th Chemical Sensor Symposium
Youichi Shimizu (Kyushu Inst. of Technol.)
Hiromichi Aono (Ehime Univ.)
Nahoko Kasai (NTT)
Soichi Yabuki (Nat'l Inst. of Biosci. & Human-Technol.)
Shigeru Toyama (Nat'l Rehabilitation Center for Disabled)
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