Chemical Sensors

Vol. 13, No. 1 (1997)


Abstracts



研究雑感 − 999の努力と1つのアイデア −

江頭 誠

長崎大学工学部・教授

A Research Stance -Triple Nine Efforts and One Idea-

Makoto EGASHIRA

Nagasaki University



 化学センサ研究会の発足から12年が経過し,前身の研究懇談会時代から数えるとはや満20年になる。この間,歴代会長をはじめ会員各位の不断の努力により,本研究会が順調に発展し,化学センサ分野の学問の進展と産業界の発展に些かでも貢献し得てきたことは,まことに大慶の至りである。さらに,化学センサが,本研究会の中だけに留まらず,他の関連する学協会でも広く取り上げられるようになってきたのもまことに喜ばしい限りであり,本研究会の活発な活動の賜であると考えている。
 しかしながら,一方において,「最近は学会が多くなり過ぎた」との批判が出てきているのも事実である。例えば,国内だけでみても,本研究会の年2回の研究発表会の他に,日本化学会,日本セラミックス学会,電気学会,分析化学会等いろんなところで化学センサ関連の研究発表がなされており,加えて,化学センサ国際会議,東アジア化学センサ会議,トランスデューサ会議,バイオセンサ国際会議,ユーロセンサ会議,環太平洋化学会議,国際電気化学会議等々が目白押しである。内外の科学者・技術者,とくに他の研究分野の人たちとの交流は,新たな展開,新規なアイデアにつながるので,極力これらの会議に出掛けるようにしているが,とても全部には付き合い切れないという思いが正直なところである。すべてに付き合っていれば,どうしても発表内容が希薄になってしまう。内容を小出しにしたもの,実験データだけで理論的な考察がないもの,あるいはアイデアだけで実験的な裏付けに乏しいものなど,私自身の研究を含め最近そのような傾向に進みつつあるのではないかと,いささか危惧の念を覚えている次第である。
 私の好きな言葉の一つにThomas Alva Edisonの「99%の努力と1%のひらめき」がある。新規な検知原理,新材料開発,新しい応用分野の開拓,新商品開発など,センサの分野はどちらかというとアイデア勝負の面が多い。研究を進める上でも独創性がないと意味がないし,他人の仕事のトレースばかりでは面白くも何ともない。しかし,アイデアや独創性だけが先行して実験的な証拠・裏付けがないのも,絵空事にみえて説得力に欠ける。学生時代,恩師である清山哲郎先生から,「研究は実験の積み重ねである。データをして語らしめよ」とよくお叱りを受けたものだ。最近の若い人は血と汗にまみれることがあまり好きでないようである。コンピュータと連動した高価な装置を使ったスマートな実験を好む傾向が強い。これも時代の流れで致し方ない面もあるが,若い人にはできるだけ血と汗にまみれる経験を積ませたいと念願している次第である。それによって初めてアイデアやひらめきも生まれてこようというものである。彼の天才Edisonであっても,血と汗にまみれた努力の積み重ねによってはじめて数々の発明を成し得たと述懐している。いろんな経験や下地がなければ,いかに聡明な頭脳の持ち主であっても何も生み出しえないのは当然の理である。われわれ凡人は,少なくともEdisonの10倍以上の努力が必要ではなかろうか。私自身は歳とともに手を汚すことができない状況に陥っているが,少なくとも研究室の学生には,このようなスタンスで研究に励めと教育してゆきたいものである。


自動車用の新規な化学センサのニーズ

清田 文夫

株式会社リケン 技術管理部
〒360 埼玉県熊谷市末広4-14-1

Up Coming Need for the Chemical Sensors in Automotive Use

Fumio KIYOTA

Riken Corporation, Technical Management Division
Suehiro 4-14-1 Kumagaya, Saitama 360, Japan

Predicted the up-coming need for the chemical sensors in point of the progress of automotive engines to cope with the environmental demands and improvement of compartment amenity (air quality). NOx sensor and HC sensor are suggested to be used for the applications of the engine combustion control, and the diagnosis of the emission clarification system. Also, an application of NOx sensor to the compartment amenity control is considered.

はじめに
 自動車は利便性に富んだ移送および移動手段である。今日の自動車は、車本来の走りの性能の他に、環境対策や経済性をも両立させたものとなっている。特にガソリン車の環境対策面での進歩は電子制御技術とともに三元触媒と酸素センサの寄与度が大きいと考えられる。しかし、全世界で約7億台、日本国内でも約7千万台が使用されている自動車は、依然として温暖化や酸性雨のような地球規模での問題や、過密地域での大気汚染の問題を抱えており、今後さらに燃費を改善するとともに排気ガス中の有害物質を低減することが求められている。Fig. 1に米国カルフォルニア大気資源局のNOx, SOxの発生源調査結果を示すが、自動車からのエミッションはかなりの割合をしめていることが分かる。さらなるエミッション低減が求められる所以である。一方、CO2に関しても、自動車を中心とする運輸関係から排出される量も無視できない量であり、燃費改善の努力も継続されなければならない(Fig. 2)。このような、予測される自動車を取り巻く環境変化の中で新たな化学センサのニーズやウオンツについて、極めて楽観的に推察してみる。




走査型電気化学顕微鏡(SECM)による局所センシング

末永 智一

東北大学大学院工学研究科
〒980-77 仙台市青葉区荒巻

Microsensing using Scanning Electrochemical Microscopy

Tomokazu MATSUE

Graduate School of Engineering, Tohoku University
Aramaki, Aoba-ku, Sendai, 980-77, Japan

Characterization and application of localized reactions of biomolecules by scanning electrochemical microscopy (SECM) are reviewed. The followings are the contents: 1. Principle of SECM. 2. Characterization of localized enzyme reactions. 3. Fabrication of enzyme patterns by SECM. 4. SECM/ELISA system for trace- and multi-analysis of proteins. 5. Characterization of biomembranes. 6. Characterization of single cells.

はじめに
 最近,マイクロ電極を探針とした走査型電気化学顕(Scanning Electrochemical Microscopy, SECM)が開発され1),局所領域の電気化学センシングなど種々の系で用いられるようになっている.SECMの空間分解能は探針であるマイクロ電極径に依存するため,STMやAFMのような原子,分子レベルの解像度は期待できない.しかし,SECMを用いると,固体試料表面のみならず局所空間で化学反応を評価・画像化でき,また局所領域にコントロールされた化学反応を誘起することが可能である.本稿では,SECMを用いた局所生体関連反応の探索と応用に関して,我々の研究を中心に紹介する.




第24回化学センサ研究発表会

('97年3月26〜28日 於 神奈川大学横浜キャンパス)

大分大学工学部      石 原  達 己
大阪大学大学院工学研究科 今 中  信 人
九州工業大学情報工学部  鈴 木  正 康
生命工学工業技術研究所  矢 吹  聡 一


The 24th Chemical Sensor Symposium

Tatsumi ISHIHARA (Oita Univ.)
Nobuhito IMANAKA (Osaka Univ.)
Masayasu SUZUKI (Kyushu Inst. of Technol.)
Soichi YABUKI (Nat'l Inst. Bioscience & Human-Technol.)

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