Chemical Sensors
Vol. 34, No.2 (2018)

 

Abstracts



巻頭言

化学センサ研究開発におけるセレンディピティ

大阪ガス株式会社 副理事 エグゼクティブリサーチャー
(化学センサ研究会 副会長)

大西 久男

この度、本会副会長を拝命致しました大阪ガスの大西でございます。これまで、セラミックス材料・触媒・燃料電池・ガス警報器・ガス供給設備等の基礎研究から商品化・品質管理等の様々な業務に携わらせて頂きましたが、とりわけガスセンサ技術には入社以来一貫して関わって参りまして、研究者・技術者として本研究会に育てて頂いた者と致しまして、微力ではございますが、本会に少しでも恩返しをさせて頂ければと存じます。
 私は、学生時代に、故柳田博明先生のご指導の下、機能性セラミックスの研究をさせて頂き、実に多くのものを学ばせて頂きましたが、特に感銘を受けましたのが、「セレンディピティ」の重要性でした。偶然の幸運に恵まれることなどの受動的な意味で使われることもあるようですが、「セレンディピティ」の本来の意味は、「何かを探している時に、それとは別の価値あるものを見つけ出す“能力”や“才能”」を指す言葉で、先生から「研究者・技術者として成功したければ、セレンディピティを研ぎ澄ましなさい。」と折に触れご指導を受けたことが、その後の私に大きな影響を及ぼすことになりました。
 大阪ガスに入社直後、ガスセンサの検知機構研究に関わることになり、半導体ガスセンサの電気伝導度変化の支配因子を解明するため、「ホール効果測定装置」に強力な超電導マグネットを導入致しました。半導体に強磁場を印加すると「磁気抵抗効果」により電流が流れ難くなるため、その影響を見積もる実験を実施していた時のことでした。センサが水素を検出している時だけ、磁場を印加すると減少するはずの電流が増加することに気付いたのです。当初は、実験ミスかもしれないと思い、何度も再実験しましたが、結果は同じ。詳細を調べてみると、“酸化スズ表面に吸着した酸素と水素の反応速度が強磁場を印加すると速くなる”という未知の現象を発見したことが明らかになりました。この現象は、高温下表面反応における磁場効果として世界初の発見で、J. Phys. Chem.に即採択されるなど高いご評価を頂き、入社一年目でこのような経験をした私は、すっかり「セレンディピティ」の持つ可能性の虜となりました。その後、私は、世界初の電池駆動ガス警報器を実現した超低消費電力ガスセンサの開発に携わらせて頂きましたが、このセンサの中核技術であるナノ柱状構造薄膜、選択酸化触媒層なども、実験条件を誤って設定し得られた試料を詳細に調べた結果、想定外の新規構造や新規機能を見出したことがきっかけとなり開発に成功した物でした。これらの成果は、正にセレンディピティの賜物だったと言えます。
 そもそも、「実験」とは、全てを知り得ない人間が自分の考え (仮説)を問うために自然 (神の理)と対話する行為で、実験結果は、私たちの問い (仮説)に対する自然の回答と言えます。自然は、仮説の正否だけでなく、私たちが気付いていないことも教えてくれています。「実験」という行為には、本質的な「失敗」はありません。実験結果が「予想外」・「想定外」であった時こそ、「自然」が私たちに何かを教えてくれようとしているのだと考え、価値ある知見を見逃さないようにしましょう。
 セレンディピティを発揮するためには、「視野を広く持ち、目前の『目標』や『目的』の上位にある『上位目的』や『理念』を重視し、目的意識を高く持つ」、「仮説を持ち・結果を想定した上で実験に望む」、「得られた実験事実に真摯に向かう」、「世の中のニーズや課題を頭の中の『引出し』に入れておくことにより、未だ見ぬ現象に出会ったときに、それを課題解決手段に結びつける準備をしておく」ことなどが、重要です。  IoT時代が到来し、化学センサに対する期待がかつて無く高まっています。
 本研究会員の皆様。セレンディピティを研ぎ澄まし、化学センサによるイノベーションを共に推進致しましょう!

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トピックス

揮発性有機化合物の高感度検知を目指した
固体電解質および半導体ガスセンサの開発

木田 徹也

熊本大学大学院自然科学研究科
〒860-8555 熊本市中央区黒髪2-39-1

Development of Solid Electrolyte- and Semiconductor-based Gas Sensors for Highly Sensitive
Detection of Volatile Organic Compounds

Tetsuya Kida

Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University
2-39-1 Kurokami, Chuo-ku, Kumamoto 860-8555, Japan

The development of compact sensors that can detect volatile organic compounds (VOCs) is to address air quality issues and to avoid health risk associated with VOCs. This article reviews our recent progress in developing solid electrolyte- and semiconductor-based gas sensors for highly sensitive detection of VOCs. An overview of the exploration of a mixed-potential-type VOC sensor using oxide ion-conducting BiCuVOx (Bi2Cu0.1V0.9O5.35) fitted with perovskite oxide electrodes is provided. The importance of designing its electrode structure is discussed. Other successful development of ultrasensitive VOC sensors using SnO2 is also introduced. The significant effects of pore size on sensor response to VOCs in semiconductor-based gas sensor is discussed. Finally, perspectives concerning the future development of VOC sensors are outlined.

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医療・バイオ分野での利用に資する
アンペロメトリックセンシングチップの開発

井上 (安田) 久美

東北大学・大学院環境科学研究科・先端環境創成学専攻
〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11

Development of Amperometric Sensor Chips
for Medical and Biological Fields

Kumi Y. Inoue
Department of Frontier Science for Advanced Environment, Graduate School of Environmental
Studies, Tohoku University
6-6-11-604, Aramaki, Aoba, Sendai 980-8579, Japan

This article reviews the development of chip-type amperometric sensor for medical and biological sensing use, including amperometric protease assay method and its application to endotoxin sensor and cell apoptosis sensor, whole cell biosensors, multi-electrochemical sensing platform “Bio-LSI”, and amperometric sensor with bipolar electrochemistry. These novel and unique sensing methods and devices will be used for wide fields such as medical diagnosis, home healthcare, environmental monitoring and biological research as portable, simple and convenient measurement tools.

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