Chemical Sensors
Vol. 30, No.4 (2014)

 

Abstracts



巻頭言

予兆を科学するセンサ

豊橋技術科学大学 教授

澤田 和明

想定外の未曾有の自然災害が私たちの身の回りで起こっている.しばしば,その報道の中で,“予兆は無かったのだろうか?”など話題に上ることがある.例えば,広島の土砂災害の前に,「いつもと違った臭いがあった」との証言や,御嶽山の噴火の前には,「火山性の微動が増えたが,警報を出すほどではなかった」等,災害現場となった土地に住む人々や専門家の見解が新聞に掲載された.構造物の安全を守る研究をされている研究者の方にお話をお伺いしたとき,「計測技術,解析技術はあっても何を計測すべきかわからないのが最大の課題である」とのご意見を述べられていた.  旧来のセンシング技術は,起こりうる既知の現象をあらかじめ予測し,それに応じたセンサを設置することが基本であった.そのため結果があらわになって初めて有意な信号が得られることになり,これでは万事手遅れになってしまう.例えば,土砂崩れが起こりそうなところに加速度センサを設置して,土砂の滑りはじめをいち早く察知することが現在行われているが,これでは避難する時間すらない.このままでは,センサは想定外の未曾有の事象をセンシングできない.
  “センサ”デバイスは,インターネットにすべてのものがつながり(IoT:Internet of Things),大量のデータ解析に基づくビッグデータビジネスの情報の入口として,その役割はますます重要性を増す.その主役になるのは,医療・ヘルスケア,農業・環境などへの,私たちの“安全・安心”をさり気なく見守る『化学・バイオセンサ』であり,必要とされる箇所に利用・設置され,ばらまかれるような小型で安価なセンサである.一方,近年のビッグデータビジネスは著しい進展を見せている.インターネット上の検索単語や,消費者の購買行動に基づいたデータにより,近々起こりうる“事象”の兆しの予測をおこない,これまでの仮説検証型研究では知り得ない情報を得ている.つまり,意味があるか無いかにとらわれずより多くの情報を得ることが,この新しい動きのキーとなる.
 このように,ビッグデータ解析技術とセンサ技術が協調することで,想定外の事象が起こる予兆を捕まえることができると考える.しかしながら,新規センサ開発・製品化に向けた国内の産業界の動きは一部を除いて鈍い.その原因としてセンサ自体の既存マーケットが多品種・少量という特性に起因している.その概念を打ち破るには,LSI 技術を活用して,複数の種類の情報をセンシングできるセンサをワンチップに集積化できる,“マルチモーダルセンサ技術”かもしれない.LSI 技術を活用すると,数ミリのシリコンチップ上に原理上,数千種類以上のセンサを集積化でき,それらの出力はデジタルデータとして,無線で出力することができる.半導体の価格は基本的にチップ面積によるため,基本的な価格は大きく変わらない.このマルチモーダルセンサにより,相関関係が不明な様々な信号の変化を捕らえておくことにより,その信号のビッグデータ解析により,様々なリスク・課題の発生の有意な予兆を捕らえることができるようになり,真の安全で且つ安心な社会を築けるのではないだろうか.ビッグデータの入り口を開発する我々センサ研究者の責任は重い.
 そのためにも,社会実装を視野に入れたセンサビジネスモデルを見据えた開発をセンサ開発者自身が進める必要がある.これまでのように,安くて小さなセンサを大量に作るという売り切りビジネスの概念をまずはセンサ開発者が脱ぎ捨てることが大切であろう.

To Japanese Contents / To English Contents


トピックス

ナノポア計測:膜タンパク質ナノポアを用いた電気化学的一分子認識

川野 竜司

東京農工大学・大学院工学研究院・生命機能科学部門
〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16

Nanopore sensing: electrochemically single molecule
recognition using pore-forming protein nanopores

Ryuji KAWANO

Division of Biotechnology and Life Science, Institute of Engineering, Tokyo
University of Agriculture & Technology
2-24-16, Naka-cho, Koganei, Tokyo 184-8588

This article describes electrochemical single molecule measurement based on biological nanopores embedded in planar lipid bilayer membranes. Pore-forming membrane proteins have been used as the sensing element and they allow label-free detection with a high signal-to-noise ratio at the single molecule level. One of the important things for the nanopore measurement is the stability and reproducibility of the lipid bilayer membranes. To improve the durability of the nanopore sensing with lipid bilayer, we proposed droplet contact method. In this method, a lipid bilayer is formed at the interface between contacting two droplets in an oil/lipid mixture, and the stability and reproducibility of the bilayer membrane are improved using this method. In addition, we also proposed a method for the rapid and highly selective nanopore detection using a DNA aptamer. The DNA aptamer recognizes the target molecule with high selectivity. We successfully detected a low concentration of cocaine within 60 s using a biological nanopore embedded in a lipid bilayer.

To Japanese Contents / To English Contents


トピックス

有機トランジスタ構造を用いたバイオセンサと化学センサの基盤研究

南 豪1,2、南木 創1,2、時任 静士1,2

山形大学大学院理工学研究科、山形大学有機エレクトロニクス研究センター
〒992-8510 山形県米沢市城南4-3-16

Fundamental research of biosensors and chemical
sensors based on organic transistors

Tsuyoshi MINAMI, Tsukuru MINAMIKI, Shizuo TOKITO

Research Center for Organic Electronics (ROEL), Graduate School of Science and
Engineering, Yamagata University, 4-3-16 Jonan, Yonezawa, Yamagata 992-8510

As part of our ongoing research program to develop healthcare devices, we are proposing new biosensors and chemical sensors based on organic field effect transistors (OFETs). OFETs can be applied to wearable and disposable sensors because of their mechanical flexibility and low manufacturing costs. In this review, we describe OFET sensors modified with antibodies, enzymes, or artificial receptors for versatile sensing purposes such as mental stress monitoring, early detection of diseases, and food freshness sensing. We believe that OFETs will widen the avenues for the potential development of future sensor devices in healthcare applications.

To Japanese Contents / To English Contents