Chemical Sensors

Vol. 25, No. 2 (2009)


Abstracts


研究開発ともの造りのイノベーション

化学センサ研究会 副会長  小笠原 憲之

(エフアイエス(株) 代表取締役)

  もの造りのイノベーションについて東京大学の藤本隆宏先生は、「シュンペーターも示唆する通り、イノベーションとは“新設計による事業化”のことであり、新しい知識や技術から新しい設計情報が製品に組み込まれ、お客様に届き、期待や満足がさらに購買意思につながる一連の流れ(付加価値を生む設計情報の流れ)が完結してはじめてイノベーションは成立する」とおっしゃっています。即ち、画期的な新技術も売上が立たなければイノベーションとは言わないのです。

  私たち化学センサに携わって来た者は新しいセンサの発想、開発に対し、その可能性への興味と意欲を持って長い年月を費やして来ました。その結果、化学センサは世界中の多くの分野で目覚しい発展をとげ、今や安全機器だけでなく、自動車、家電機器、環境や医療分野まで広がり、社会への貢献とその成果は誰もが認めるところまで来ました。しかし、最近、センサメーカーとして、もの造りの視点が不足していることを思い知らされています。と言いますのは、数年前から自動車メーカーの開発部門と共同でセンサ開発を行う機会が増えて来ており、自らが設計開発する際の「もの造り」の視点の脆弱さを痛感し、猛勉強させられている状況です。

  我が国の自動車メーカーは、アメリカやヨーロッパの先人達から学んだ技術や知識を完全に体得し、今や、品質性能においても、価格においても、さらには地球環境への貢献においても、世界で最も高い評価を得るに至っています。ここまでのレベルに到達出来たのは、厳しい競争に打ち勝つための技術力と「もの造り現場」のたゆまぬ努力によって支えられてきたからに他ならないと考えています。

 本研究会での発表や論文からはすばらしい研究や開発を数多く見いだすことが出来ます。しかし、発表や論文だけに留まり、製品の事業化を実現し、顧客満足まで到達出来たものがとても少ないとも感じています。今、われわれに求められているのは「もの造り」の視点だと思います。化学センサの事業化は、設計情報をもの造りの良い流れに持って行くための実験、検証データに大きく依存していると考えています。化学センサは物理センサとは違い、実際の厳しい使用環境、雰囲気変化の影響を強く受けます。これら環境下での耐久性を含めた性能確認は通常の検証に比べて5倍も10倍ものデータが必要で、長い時間と、研究者の飽くなき執念と情熱が必要です。

 近年、欧米での化学センサの研究開発現場は、センサを用いた検出機器や測定機器を使っている現場と密接な繋がりがあり、設計情報を的確にセンサ開発者にフィードバックしながらの開発、改良が進められています。例えば、病気の初期診断に化学センサが使われ始めていますが、病院現場にエンジニアが常駐し、開発した機器の問題の解決や新しい機器開発のための検討を 医師とエンジニアが一緒になって進めています。今後、化学センサを応用した機器の設計情報の交換、検証、さらには改良、開発をスムーズに行っていくために、大学の研究者、センサメーカー、機器製造会社がどのように情報交換し、如何に利用現場とのネットワーク化を図っていくべきか、本研究会の活動と併せて考えて行きたいと思っています。化学センサの研究、開発への深い情熱、そして、世の中に役立つ機器開発への強い意欲があれば解決して行ける課題だと思っています。

 地球環境は急速に悪化の一途をたどっています。自分たちの子供達だけでなく、子孫がいつまでもこの地球で生きて行ける環境を保ち、また、尊い人命を守って行くための製品に化学センサは大きく貢献出来ると信じております。


電極触媒活性の精密制御に基づいたガスセンシング技術の開発と各種デバイスへの応用展開

日比野 高士

名古屋大学大学院環境学研究科(情文)・教授
〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町

Gas Sensing Techniques Based on Activation of Electrocatalysts and Their Applications to Various Devices

Takashi HIBINO

Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University
Chikusa-ku, Nagoya 464-8601

In this work, we propose a new concept for eliminating the gas separators from a proton-conducting fuel cell stack by operating each cell in a mixture feed of hydrogen and air, the working mechanism of which relies on the selectivity of the anode and cathode to hydrogen and oxygen, respectively. We also develop another concept for H2-SCR based on proton conduction as a catalyst support. In a mixture of NO, H2, and O2 in Ar, H2 dissociated to protons and electrons at an anodic site of a PtRh catalyst, causing a negative potential. On the other hand, NOx reacted with protons and electrons to form N2 and H2O at a cathodic site of the PtRh catalyst, resulting in a positive potential. As a result, an electrochemical local cell was formed at the PtRh catalyst, followed by self-discharge. Two major catalytic properties were observed; catalytic activity over a wide temperature range (50-350 oC) and remarkably high N2 selectivities (>90%).


酵素電極方式を用いたディスポ型バイオセンサの開発

吉岡 俊彦

パナソニック株式会社 バイオ技術開発室・室長
〒619-0237 京都府相楽郡精華町光台 3-4

Development of Disposable Biosensors based on Enzyme-Electrode System

Toshihiko YOSHIOKA

Panasonic Corporation, Bioscience Technology Development Office
3-4, Hikaridai, Seika-cho, Soraku-gun, Kyoto 619-0237, Japan

Disposable biosensors based on amperometric enzyme electrode have been developed. The biosensor is composed of electrodes, reagents and a cavity cover. The reagents are enzyme, electron mediator (hexacyanoferrate ion) and a hydrophilic polymer. This biosensor technology was applied to self monitoring of blood glucose. A blood glucose concentration of diabetics was measurable up to 600 mg/dL. Furthermore, this technology was applied to monitoring of blood lactate level and to multi-monitoring of glucose and lactate for fermentation process control.


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