Chemical Sensors

Vol. 13, No. 4 (1997)


Abstracts



境界領域と化学センサ

勝部 昭明

埼玉大学工学部・教授

Boundary Region and Chemical Sensor

Teruaki KATSUBE

Saitama Univ.

 本文の執筆をお引き受けするにあたり,私にはかなり躊躇する思いがあった.私は化学をバックボーンに持たず,従って「化学センサ」なる伝統ある専門誌の巻頭言に登場するのは場違いだという気持ちが強かったからである.私は留学をきっかけにして化学センサを知り,この研究会に顔を出させていただくことになった.初めは化学の知識が無く研究発表でも批判を受けることが度々あり,失意を感じたこともあったが,こうして今まで続いたのは,当研究会が異分野の者も広く受け入れる包容力を持っていてくださったからである.化学センサの研究を始めた当初,この分野には電子,情報の分野を必要とする領域があるということを実感した.当研究会には,その前身である「センサ研究懇談会」の当初から境界領域の学問を育成していただいた歴史があることを知ったのはそれからしばらくしてからである.現在はこのような境界領域の学問が再び注目されている.私が奉職する埼玉大学にも電気電子と化学の分野が融合した機能材料工学科が新設された.また専門分野の交流のみでなく,産官学が連携して新しい技術を創製しようとする試みが政府主導で行われようとしている.今日このような分野が注目されるのは,停滞気味の日本の科学技術を発展させるために最も重要なことの一つと受け取られているからである.異分野の専門が協力するいわば加算効果と,それにとどまらない相乗効果,累乗効果が期待されているのである.
 このような累乗効果を実現しているものに生体のセンシング機能がある.例えば味覚や嗅覚を例にとれば,味やにおいを検出する部分や信号処理するニューロネットの部分はある程度分析のメスが入っていて,それを模したセンサーも製作されている.しかし生体ではこれらが結合して機能するしくみはきわめて巧妙であり想像のつかない効果が発現している.境界学問にはこのような未知の領域を開拓する責務が委ねられていて,それゆえに夢のある領域である.
 環境や医用,食品産業等で今日ほど化学センサの実用化が多方面で要求されている時期はない.化学センサは大きな発展をとげたが,それゆえにこそこのような強い要求に応えるには更なる発展が期待されている.今後の化学センサの発展を考えるには境界領域の視点が一つのキーになるのではないだろうか.
 「化学センサ」誌の10周年記念号を通読させていただいて,本研究会の残した足跡に改めて敬意の念をもった.現在では化学センサの研究は枝葉を大きく広げ,当研究会のみならず,他の学協会や国際学会でも広くとりあげられるようになっている.これに対し,研究発表の回数は増えているが,内容の充実が伴っていないとする批判もある.又文化の違いから意見の交流が深まらないと指摘する声もある.しかし量の増加はそれ自身質の転換につながる可能性を少なからず含んでいることが多いし,またこれらのアプローチは大なり小なり異なった視点がある.このような多様な可能性が局所的な研究に留まらず,有為な方向にベクトルをそろえることが出来たら,それは新しい化学センサの可能性を生み出す力となるはずである.このような分野にも当研究会のご指導を仰ぎたいと考えるのは欲が深すぎるであろうか.




イオンセンサ

伊藤 善孝

新電元工業(株)
〒357 埼玉県飯能市南町10-13

Chemical Sensors 1996/97-Ion Sensors

Yoshitaka Ito

Shindengen Kogyo, R & D Center
Hanno, Saitama 357, Japan

1.はじめに
 1996年から1997年の主だったイオンセンサの関連でISFETを中心に,以下順を追って紹介する.しかし,全ての文献を読んでいないので,興味対象のキーワードを MOS & FET Ion Sensor,IC Technology, Miniaturization,Stabilityとし,μ-TASは守備範囲外であることをお断りしておく.




固体電解質センサ

桑田 茂樹、青野 宏通*

新居浜工業高等専門学校 工業化学科
〒 792 愛媛県新居浜市
*愛媛大学工学部 機能材料工学科
〒 790-77 愛媛県松山市

Chemical Sensors 1996/97-Solid Electrolyte Gas Sensors

Shigeki KUWATA and Hiromichi AONO*

Department of Industrial Chemistry, Niihama National College of Technology
Niihama, Ehime 792, Japan
*Department of Materials Science and Engineering, Faculty of Engineering, Ehime University
Matsuyama, Ehime 790-77, Japan

 1996年後半〜1997年前半にかけて発表された固体電解質ガスセンサに関する論文を, 1. O2ガスセンサ,2. CO2ガスセンサ,3. H2ガスセンサ,4. NOxガスセンサ, 5. SOxガスセンサ,6. その他のセンサ,として紹介した.

1.O2ガスセンサ
 固体電解質酸素センサとしては,安定化ジルコニア電解質を用いたものがほとんどであり,その限界電流型センサの理論的検討 1)や実際の燃焼炎中での測定 2)センサに付与する触媒層の検討 3),などもなされている.また,NdをドープしたNd0.1Zr0.9O1.95の構造解析 4)やBi2O3系固溶体の酸化物イオン導電性,熱力学的安定性などの総説 5)もある.一方,酸化物イオンの代わりに他のイオン導電体を用いた低温作動タイプの酸素センサの研究もある.
 たとえば,Kuwanoら 6)は,室温作動型酸素センサとして,PbSnF4 (SPF)を固体電解質として用いた短絡電流タイプのセンサの検知極材料について検討している.検知極には,Pt黒,各種金属フタロシアニン(Pc),カーボンとSPFの混合物を用い,それぞれの素子の応答特性を比較することでその働きを調べている.素子の基本的構成は次の電池からなる.

Ag|Ag6I4WO4|PbSnF4|SE, O2
  (SE: sensing electrode)

Pt黒を単独で用いた場合には,起電力のヒステリシスやドリフトが見れ,また,応答も遅い.Cu-Pc, H2-Pcには電極反応の触媒活性が見られず,Pt/Fe-Pc/SPFを電極として用いた素子の応答特性(性能)が最もよい.C/Fe-Pc/SPF電極におけるカーボンは電極の電気抵抗を下げ,感度,応答速度を改善する働きをしている.
 牛ら 7)は,シリコン融液の表面張力に及ぼす酸素の影響を調べるために,CaOで安定化したジルコニア酸素センサを用いている.参照極にはNi/NiOの混合粉末を用い,酸素分圧10-19 MPa以下の酸素濃度が測れることを明らかにし,極低濃度の酸素分圧の制御が可能であることを示している.
 Leeら 8)は,YSZにAl2O3を添加した微細構造の電解質を用いた限界電流型酸素センサについて検討している.Al2O3の添加量や焼結温度によって細孔制御を行い,800℃において限界電流を得ている.このセンサの特徴は,拡散層と電解質に同じ材料を用いていることである.すなわち,酸素ガスは全ての方向から素子のカソードに向かって拡散してくる.したがって,この素子は,熱衝撃に強く,素子作製も簡単で長寿命も期待できる.  また,Kimら 9)は,YSZを用いたプレートタイプの空燃比センサについて検討している.この素子は,酸素貯蔵部,ポンプ部,検知部からなる.すなわち,プレートの両側に4つの電極を持ち,1つは電解質と同じYSZで覆い,もう1つをAl2O3を添加することにより多孔質化したYSZで覆った構造である.ポンプ電圧とその電流の関係は,シミュレーション結果とよく一致している.しかし,検知電圧とポンプ電圧の関係は,電解質,電極の構造上の寄与のためにシミュレーション結果一致しない.このセンサは,参照極の電位を適当に調節することが可能で,作動領域が広がる特徴を持っている.
 Shoemakerら 10)は,サイクリックボルタンメトリへのジルコニア電解質の適用について検討している.素子は,アルミナ基板上に参照極としてのNi/NiO,Pt,YSZ(固体電解質),Pt電極を順次重ね合わせた構造である.O2,CO,各種炭化水素(プロパン,メタノール,トルエンなど)に対するボルタモグラムから,濃度依存性や温度依存性を調べている.ガス種によってボルタモグラムのパターンが異なり,各濃度依存も見られる.また,225〜300 ℃の温度での作動が最適である.
Liら 11)は,溶鉱中(1600℃)で使用する酸素センサについて,その固体電解質(YSZ)中の酸素ポテンシャルの分布を調べ,最適な参照極について検討している.このポテンシャル分布の結果に基づくと,Mo/MoO2参照極は,1600 ℃で酸素含量が300ppm以上の場合に正確な測定が可能である.一方,Cr/CrO2参照極は酸素含量の低い(〜100 ppm)条件下での測定に向いている.
(以下省略)




可燃性ガスセンサ

玉置 純

立命館大学理工学部化学科
〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1

Chemical Sensors 1996/1997-Combustible Gas Sensors

Jun TAMAKI

Department of Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Ritsumeikan University
1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu-shi, Shiga 525-8577, Japan

本稿では,1996年および1997年に発表された可燃性ガスセンサに関する論文を1) 炭化水素,2) 水素,3) 一酸化炭素,4) アルコールに分類し,紹介する.検出方式は,半導体式,固体電解質式,光学式など様々であるが,全固体型素子を報告している論文について取り上げた.また,化学センサ 1996/97 -半導体ガスセンサ との重複を避けるため,半導体式では,主としてヘテロ接合型,ダイオード型,MOS型について取り上げ,電気抵抗型ではガス検知特性を調べているものを取り上げた.




半導体ガスセンサ

玉置 純

立命館大学理工学部化学科
〒525-8577 滋賀県草津市野路東1-1-1

Chemical Sensors 1996/1997-Semiconductor Gas Sensors

Jun TAMAKI

Department of Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Ritsumeikan University
1-1-1 Noji-higashi, Kusatsu-shi, Shiga 525-8577, Japan

 本稿では,1996年および1997年に発表された半導体ガスセンサに関する論文を,1) 調製および検知機構,2) 可燃性ガス,3) 環境ガス,4) におい物質,5) パターン認識,6) センサ利用技術に分類し,紹介する.ここでは,主に電気抵抗型センサについて取り上げ,ヘテロ接合型,ダイオード型,MOS型の半導体ガスセンサでH2などの可燃性ガスを検知するものについては,化学センサ1996/1997-可燃性ガスセンサ を参照されたい.1) では,半導体酸化物の調製およびセンサの検知機構に関して調べているものについて報告する.2)〜4) では,種々の半導体材料を用いたセンサにより特定ガスの検知を行っている論文について,5) ではパターン認識によりガスの識別を行っている論文について紹介する.また,6) では半導体ガスセンサを利用した応用技術について述べている論文を報告する.総説としては,Moseleyの半導体ガスセンサや固体電解質センサなどの全固体型ガスセンサについてまとめた報告1) があるので参照されたい.




第25回化学センサ研究発表会

('97年9月10 〜11日 於 早稲田大学理工学部)

内山 俊一(埼玉工業工大学工学部)
春山 哲也(東京工業大学生命理工学部)
清水 陽一(九州工業大学工学部)
中込 真二(石巻専修大学理工学部)

Conference Report. The 25th Chemical Sensor Symposium

Shunichi UCHIYAMA (Saitama Inst. of Technol.)
Tetsuya HARUYAMA (Tokyo Inst. of Technol.)
Youichi SHIMIZU (Kyushu Inst.of Technol.)
Shinji NAKAGOMI (Ishinomaki Sensyu Univ.)

 第25回化学センサ研究会が9月10日,11日の2日間にわたって,早稲田大学を会場にして行われた.第1日目の発表は主にバイオセンサを中心に発表が行われ,午前中は一般講演5件と特別講演1件が行われ,午後1時より故清山哲郎九州大学名誉教授の追悼セッションが行われた.
 まず,前田ら(東洋大工,埼玉工大工)はカーボンフェルトを電極としてアニリンの中性溶液中でサイクリックボルンメトリーを行うとアニリンを内蔵したアニリンオリゴマー被覆電極が作製できることを明らかにし,この電極を用いるとこれまで困難であったカテコールアミン類の電気化学的分離が可能となることが示された.
 内山ら(埼玉工大工)は一般にカテコールアミンキノンと脂肪族2級アミンあるいは芳香族アミンが電気化学的に活性な付加体や置換体を生成し,新しい酸化還元波が観察されることを見出した.そしてカテコールアミンキノンの側鎖の閉環速度とアミンの置換速度の競争反応を利用するとドーパミンとエピネフリンの分離など個々のカテコールアミンの選択的な電流応答が得られることを示した.
 勝ら(岡山大薬)はリン酸エステルをキャリアーとしたヘキシルアンモニウム電極の開発を行い,有機アンモニウムイオンの認識機構の解明を行った.その結果,リン酸トリス2ーエチルヘキシルを用いた電極はカリウムイオンおよびアンモニウムイオンに対して従来のイオン電極よりも高い選択性があることが見出された.
 立間ら(東京農工大工)はペルオキシダーゼ(HRP)の活性中心であるへムの第6配位座にシアンが配位結合すると酵素活性が阻害されるという効果を利用したシアンのバイオセンサの応答特性について発表した.特に,過酸化水素濃度やHRPの電極表面密度に対する応答特性の解析を行い,HRP濃度の低い溶液から作製した電極の方が,より低いシアン濃度に対し高い応答が得られることを示した.さらにこの電極は電極表面積を小さくしたい場合も,過酸化水素濃度を高めることにより高感度にすることができることを明らかにした.
 碇山ら(国立リハビリ研,東洋大工)はpH変化の生じにくい緩衝能のある血液中の尿素を測定しうる電流検出型のマルチ酵素センサの作製について発表した.そして,多孔性の白金黒電極にウレアーゼとグルタミン酸デヒドロゲナーゼおよびグルタミン酸オキシダーゼの3種類の酵素を固定化したトライエンザイムセンサの電流応答が尿素濃度増加に伴って増加することが示された.
特別講演Iとして(株)東芝の石森氏により,同社によって開発が進められた電気化学的遺伝子センサについて講演があった.測定は,まず検出対象遺伝子と特異的に結合するDNAプローブを電極に固定化し,試料と接触させて遺伝子ハイブリッドを形成させ,次に電気化学的に活性なDNAバインダを作用させるという操作手順で行う.そして,結果として検出対象遺伝子の量に応じたDNAバインダの電解電流が得られるというのがこの方法の基本的な測定原理である.この方法と従来のC-PCR法における相関係数は0.75であり,十分実用に供することのできる電気化学的な遺伝子センサとして働くことが紹介された.
 国内外における化学センサの生みの親の一人であり,本会の発展に多大な業績を残された故清山哲郎九州大学名誉教授の追悼セッションが13時から1時間にわたって行われた.最初に江頭誠長崎大学教授の挨拶があり,故清山先生の経歴,業績について紹介があった.次に山添 九州大学教授が愛弟子を代表して故清山先生の学生時代からの人となりについて紹介された.特に半導体ガスセンサの先駆者としての業績,化学センサ研究会の前身である化学センサ研究懇談会や化学センサ国際会議の設立に対する御貢献について謝辞を述べられた.印象深かったのは,先見性,インパクトの大きなテーマ,ブレークスルーの大切さ,共同研究のすすめ,撤退,転進に対する勇気を持てなどの研究者心得の紹介であり,後に続く若い研究者達に対し深い感銘を与えた.また故清山先生と一緒に化学センサ研究懇談会の設立に尽力され,その後もバイオセンサを通して本会の発展に尽力された鈴木 東工大名誉教授により,故清山先生の人となりや研究者及び教育者としての先見性,洞察力の深さなどについて当時の逸話も交えて回想され,故人を忍ばれた.特にガスセンサとバイオセンサはそれぞれのコンポーネントのシステム化という点で類似性,共通性があるというお話は我々が研究を進めていく上で重要な何かをあらためて考えさせられた.
(内山俊一)
(以下省略)



第3回東アジア化学センサ会議

('97年11月5 〜6日 於 ソウル国立大学)

水谷 文雄(生命工学工業技術研究所)
大薮多可志 (富山国際大学人文学部)
青野 宏通    (愛媛大学工学部)
中込 真二 (石巻専修大学理工学部)
外山  滋(身障者リハビリセンター)
増井 寛二    (名古屋工業大学)
矢吹 聡一(生命工学工業技術研究所)
平山 和子(愛媛県工業技術センター)
伊藤 善孝   (新電元工業(株))


Conference Report. The 3 rd East Asian Conference on Chemical Sensors

Fumio MIZUTANI (Nat'l Inst. of Biosci. & Human-Technol.)
Takashi OHYABU (Toyama Univ. of International Studies)
Hiromichi AONO (Ehime Univ.)
Shinji NAKAGOMI (Ishinomaki Sensyu Univ.)
Shigeru TOYAMA (Nat'l Rehabilitation Center for Disabled)
Kanji MASUI (Nagoya Inst. of Technol.)
Soichi YABUKI (Nat'l Inst. of Biosci. & Human-Technol.)
Kazuko HIRAYAMA (Industrial Res. Center of Ehime Pref.)
Yoshitaka ITO (Shindengen Kogyo)

 第3回東アジア化学センサ会議(3rd EACCS)が,ソウル国立大学で11月5-6日に開催された.参加者総数は約140名で,韓国外からは我が国からの30余名を筆頭にして,中国,台湾,イギリス,イタリア,ロシア,ルーマニアから計50名弱が参加した.2日間とも,午前中をプレナリーレクチャーにあてたためもあって,ガスセンサの発表か2つの会場に分かれてしまったこと,及びキャンセルがかなり多かったことは若干残念であったが,会議は全般に整然と運営された.
 5日朝にはレクチャーの開始に先立って,江頭教授による故清山先生のMemorial Talkの時間がとられ,多大な業績の紹介を始め,先生の「今流行っていることを追いかけずに,新しい現象の発見につとめよ」等の我々にとっても励みになる(と同時に反省を迫られる)「研究訓」等も紹介された.
 5日の夕刻にはBanquetが行われ,ソウル国立大学の女子学生のカルテットによるモーツアルトの喜遊曲(K 136)の演奏で始まり,実行委員長のSoon Ja Park教授らの挨拶に続き,次回会議が1999年11-12月の3日間,台湾(Hsinchu)で開催される旨のアナウンスがあった.さらに,韓国の伝統音楽(Pan-So-Ri)も披露された.
以下,発表の概要を紹介する.
(水谷文雄)
(以下省略)


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