Chemical Sensors

Vol. 13, No. 2 (1997)


Abstracts



安全とガスセンサ

磯部 満夫

理研計器株式会社・常勤監査役

Gas Sensor for Safety

Mitsuo ISOBE

Riken Keiki Co., Ltd.

 化学センサの中でもガスセンサに対するニ−ズは古く,炭鉱坑内に発生するメタンガスなどの爆発を防止するためのメタンガス検知器であり,1815年,イギリスのデビ−卿によって考案された油安全燈(デビ−安全燈)であった。この油安全燈は,坑内の照明に使用されていた燈火(石油ランプなど)の焔がメタンガスの存在で伸張する現象を利用したガス検知器であった。1930年頃には,現在の接触燃焼式ガスセンサの原形となった熱線式ガス検知器が開発され,ヨ−ロッパの炭鉱を中心に普及して行った。
  一方,わが国では,これらと同時期に,全く異なる発想によって光干渉計式ガス検知器(光の屈折率差の利用)が,理化学研究所において考案され,国内はもとより,広く海外の炭鉱にも普及した。これは,一つの発明品によってその国のガス検知器に,特異な状況が生じた事例である。後に,これに類似した事例を酸化スズ半導体ガスセンサにも見ることができる。このように,1960年代中頃の化学工業,特に,石油化学工業の急速な発展期までは,第一次産業におけるガス検知に対するニ−ズが主流を占めていた。
 更に,液化石油ガスが工業原材料としてばかりでなく,一般家庭用の燃料としても普及するに至り,可燃性ガス検知器に対するニ−ズは,各種工業分野(第二次産業)ばかりでなく,レストラン,ホテルなど(第三次産業)から一般家庭にまで拡大するに至った。また,これらと期を一つにして,酸化スズ半導体ガスセンサが考案され,1969年には,このガスセンサを搭載した家庭用ガス警報器の量産が始まっている。
 以後,酸素欠乏事故などに代表される作業環境安全におけるガスセンサ,大気環境計測におけるガスセンサ,ここ10年には半導体工業用ガスの安全におけるガスセンサなど,産業の進展に沿ったニ−ズが,次々に発生し,それらに呼応して,各種のガスセンサが考案され,実用化されてきている。
 このように,ガスセンサ(1970年頃まではセンサという用語は使われていなかった。)は,多岐にわたる技術分野で,それぞれの場合に応じたガス検知器が考案され,実用化されてきたものが多く,どちらかといえばニ−ズ指向型の成長をしてきた。そこで,これらを学問的に体系付けて考察したり,総合的な見地からこの分野を見直すことが,後回しになる嫌いがあった。
 そこにいち早く着目された清山哲郎九州大学名誉教授を始めとした諸先生方によってセンサ研究懇談会が発足(1977年)し,その後,現在の化学センサ研究会へと発展してきている。その間,この研究会に大学・研究機関・企業の様々な研究開発の経験を持った化学センサ研究開発に携わる方々の参加があった。
 私も発足当初からのメンバ−の一人であるが,最近の参加企業の広がり,参加者の広がりには驚くばかりである。ここに,周辺科学技術の発展とあいまって検知機構さえ解明されていなかった各種のガスセンサは,物理的・化学的現象や検知対象ガスとの関連について系統的な検討が進み,分類も明確にされて,シ−ズ指向型の学理体系化が進められてきている。
 今後は,様々な分野のシ−ズが先行して,化学センサの研究開発は加速されることが予想される。
 また,化学センサ研究会に期待するところも益々大きい。




バイオセンサ

安斉 順一・小林 由佳・陳  強

東北大学薬学部
〒980-77 仙台市青葉区荒巻字青葉

Chemical Sensor 1996-Biosensors

Jun-ichi ANAZAI, Yuka KOBAYASHI, Qiang Chen

Faculty of Pharmaceutical sciences, Tohoku University
Aramaki, Aoba-ku, Sendai 980-77, Japan

 1996年に発表されたバイオセンサー関係の論文について以下に順を追って紹介する。シンポジウム等のプロシーディングに掲載された論文は、専門誌の特集号として掲載されたもの以外は本稿には含まれていない。また、発表された論文は膨大多岐にわたり、全てを網羅できた訳ではないことをあらかじめご了承願いたい。
バイオセンサーの最近の研究動向に関する総説がいくつか発表された。Anal. Chem.のFundamental Reviewsは隔年に発表されているが、1996年はDynamic Electrochemistryの項目の中に1993年11月から1995年10月までの2年間のバイオセンサーおよび関連する論文が引用された1)。また、パーオキシダーゼ修飾電極の基礎とバイオセンサー等への利用に関する総説が発表され、詳細かつ網羅的に194件の文献が引用されており関係者には有用である2)。その他に、毒性化学物質および生物物質のセンシング3)、飲料水および薬品や食品中の微生物の検出についてバイオセンサー法と他法との比較4)、環境計測への電気化学免疫センサーの応用可能性5)、バイオルミネッセンスを利用する微生物センサー6)、核酸修飾電極を利用したDNAの計測7)、およびバイオセンサーによるDNAの塩基配列決定8)、導電性ポリマーのバイオセンサーへの利用および生体適合性9)、生体内留置型グルコースセンサー開発の現状10)、などの総説が発表された。




マイクロマシーニング技術による化学センサの微小化

鈴木 博章

筑波大学物質工学系
〒305 つくば市天王台1-1-1

Miniaturization of Chemical Sensors Using Micromachining Techniques

Hiroaki SUZUKI

Institute of Materials Science, University of Tsukuba
1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki 305, Japan

Micromachining techniques have a potential in fabricating miniature chemical sensors. These include anisotropic etching of silicon, field-assisted bonding, and other precesses using various polymers in addition to photolithographic processes. Owing to these techniques, batch-fabrication of the chemical sensors became possible resulting in the decrease in the production cost along with their miniaturization. They have been applied to miniaturize the Clark-type oxygen electrode, the glass electrode, and the liquid-junction Ag/AgCl reference electrode. Their recent developments will be presented.

1.はじめに
 半導体プロセス技術、マイクロマシーニング技術は、微小なセンサを一括大量生産する上で不可欠な技術である。近年これらの技術を応用したマイクロ化学センサも数多く開発されているが、加速度センサ等のマイクロ物理センサに比べ、現在のマイクロ化学センサには検討の余地がまだ多く残されている。これは、以下のような固有の難しい問題があるためである。
(1) 多くのマイクロ化学センサは水溶液中に浸漬して用いられる。このため、絶縁の問題は物理センサ以上に厳しくなる。
(2) センサの構成要素が(電気)化学反応、拡散等により、消耗、劣化する場合が多い。電極材料に薄膜を用いるマイクロセンサでは、しばしばこれは寿命を著しく短くする。
(3) Clark型酸素電極やSeveringhaus型二酸化炭素電極のように、センサの構成要素として水溶液を含むものがある。これを半導体/マイクロマシーニングのプロセスと整合性を持たせなければならない。
従来のマイクロ化学センサでは、ISFETのように二次元的な平面構造を採用しているものが多い。しかし、マイクロマシーニングの基本技術であるシリコンの異方性エッチングなどの技術を用いると、微小な三次元構造を構築できるため、自由度が増し、いろいろな細工ができるようになる。これにより、上の問題の幾つかにつき、解決の糸口が見いだされる場合がある。本稿では、その具体例を、筆者の行った研究を中心にして紹介する。




第2回環太平洋セラミックス学会国際会議

('96年7月14〜17日 於 Cairns Convention Centre, Cairns, Australia)

長崎大学工学部  清 水  康 博
九州大学大学院総合理工学研究科 今 中  信 人

Conference Report. The 2nd International Meeting of Pacific Rim Ceramic Societies

Yasuhiro SHIMIZU (Nagasaki Univ.)
Kengo SHIMANOE (Kyushu Univ.)

 第2回環太平洋セラミックス学会国際会議(PacRim2)は、1996年7月14日から17日の4日間、オーストラリアのケアンズ市のケアンズコンベンションセンターで開催された。この会議への全参加者は約600名で、日本からの参加者は約150名とのことであった。
 この会議では25のシンポジウムが開催され、一部のシンポジウムを除いて、それぞれ口頭発表とポスター発表が行われた。化学センサに関しては、"Ceramic Gas Sensors"のシンポジウムで15日に口頭発表が、また16日にポスター発表が行われた。KeynoteとInvited講演を行う予定であったW. Weppner教授が急用のため会議に出席できず、両講演ともキャンセル(但し、講演概要はポスターとして発表された)されたのは残念であった。
 以下、"Ceramic Gas Sensors"シンポジウムでの発表の概要を紹介する。




第15回「センサの基礎と応用シンポジウム」

('97年6月3〜4日 於 川崎市産業振興会館)

長崎大学工学部・清 水 康 博
国立身体障害者リハビリテーションセンター・外 山  滋

Conference Report. The 15th Sensor Symposium.

Yasuhiro SHIMIZU (Nagasaki Univ.)
Shigeru TOYAMA (Res. Inst., Nat'l Rehabilitation Center for the Disabled)

 第15回「センサの基礎と応用」シンポジウムは、川崎市産業振興会館で6月3日と4日の2日間の日程で開催された。このシンポジウムでは3会場、13のセッションに分かれて、合計7件の招待講演と56件の一般講演が行われ、参加者は約300人であった。この内、化学センサ関係のセッションでは、1件の招待講演と11件の一般講演が行われた。以下に各講演の概要をまとめる。



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