Chemical Sensors
Vol. 12, No. 4 (1996)
Abstracts
化学センサーとマイクロファブリケーション
内 田 勇
東北大学大学院工学研究科・教授
Chemical Sensors with Microfabrication Techniques
Isamu UCHIDA
Tohoku Univ., Professor
「センサーハイテク、電池はロウテク」と答案紙に書いてくれた学生がいた。私におもねるつもりであったかもしれないが、1兆円産業にやがて手が届こうという工業製品を目してなんてことを言いやがると思いながら、センサーをハイテク製品と見ている学生の受け止め方にも納得できるものがある。センサーのイメージには高機能化と完成度の高さが感じられて、いかにも格好が良いからである。思うにこの学生は、お世辞にも格好が良いとは言い難いかってのセンサー、例えば先の尖ったガラス電極の先端部に感応膜と称する半透膜をOーリングでかぶせた昔の 化学センサーを知らないのであろう。学生が見ているようなシリコンベースのマイクロファブリケーション技術と結びついた最近のセンサーシステムはまさにハイテク製品の名にふさわしい。
あれは昭和40年代の終わりか50年代の初め頃であったろうか、本学工学部電子工学科の松尾研究室でISFET作製の現場を見せられ度胆を抜かれた。当時はまだ大学院の学生か助手になりたての江刺教授が私に事細かに説明してくれたのを鮮明に憶えている。先ず金の掛け方の違いに驚き、半導体電極界面の解離2重層による電位発生機構の説明で頭に血が昇り、界面電位差の測定にドレイン電流が使われるのを聞くに及んで、私の目の前からハイテク電気化学が遠ざかり、自分がロウテク電気化学の谷間で這いずり回っているような気分になった。最先端の電気化学が全部この世界に集まってしまうのではないかとさえ思われ,「このままでは取り残されてしまう」というのが実感であった。
それほど松尾研での印象は強烈であつたので、もう10年以上前になるが、この分野の研究に私も金を掛けてみたいと思ったことがある。しかし、スパッタ装置やクリーンルームにつぎ込むほどの金もないので、金の掛からないウルトラマイクロ電極で何とかこの世界に食らいついていた。ところがある時、相当に高級な新品同様のスパッタ装置一式を、全くの無条件で"どうぞ"と私の研究室に寄贈してくれるという会社が現れた。山形県の高畠にある"ニイノ"という半導体部品製造の会社である。まるで夢のような話で、ターゲットから簡易クリーンルームの装備まで含めて提供してくれ、研究室内で自由にマイクロファブリケーションの作業ができるようになった。私どもが、マイクロアレイ電極関係の研究とサンサーへの応用に取りかかれたのはこのお蔭である。学生からみれば、さぞかしロウテク電気化学(?)から、ハイテク電気化学への脱出にみえたことであろう。
今や化学センサーの分野は、バイオを含む先端電気化学と半導体加工技術を取り入れつつ急速にハイテク化してきた。修飾電極の手法、マイクロ電極の活用、化学増幅作用の利用、フォトリソグラフィーおよびマイクロマシーニングの活用など、その内容は枚挙にいと間がないほどである。私もこの分野の格好良さとマイクロシステムテクノロジーの将来に限りなく惹かれるものである。
固体電解質センサ
桑田 茂樹、青野 宏通*
新居浜工業高等専門学校 工業化学科
〒792 愛媛県新居浜市
*愛媛大学工学部 機能材料工学科
〒790-77 愛媛県松山市
Chemical Sensors 1995/96 − Solid Electrolyte Gas Sensors
Shigeki Kuwata and Hiromichi Aono*
Department of Industrial Chemistry, Niihama National College of Technology
Niihama, Ehime 792, Japan
*Department of Materials Science and Engineering, Faculty of Engineering, Ehime University
Matsuyama, Ehime 790-77, Japan
1995年後半〜1996年前半にかけて発表された固体電解質ガスセンサに関する論文を、1. O2ガスセンサ,2. CO2ガスセンサ,3. H2ガスセンサ,4. NOx, SOx, Cl2, H2Sガスセンサ、5. その他のセンサ、6. 溶融金属に応用するセンサとして紹介した。
可燃性ガスセンサ
玉置 純
立命館大学理工学部化学科
〒525 滋賀県草津市野路東1-1-1
Chemical Sensors 1995/1996 - Combustible Gas Sensors -
Jun Tamaki
Department of Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Ritsumeikan University
Noji-higashi 1-1-1, Kusatsu-shi, Shiga 525, Japan
本稿では、1995年および1996年に発表された可燃性ガスセンサに関する論文を1)炭化水素、2)水素、3)一酸化炭素、4)アルコールに分類し、紹介する。検出方式は、半導体式、固体電解質式、圧電体式、熱量測定式など様々であるが、全固体型素子を報告している論文について取り上げた。また、化学センサ1995/1996 - 半導体ガスセンサとの重複を避けるため、半導体式では、主としてダイオード型、FET型について取り上げ、電気抵抗型ではガス検知特性を調べているものを取り上げた。
半導体ガスセンサ
玉置 純
立命館大学理工学部化学科
〒525 滋賀県草津市野路東 1-1-1
Chemical Sensors 1995/96 - Semiconductor Gas Sensors
Jun Tamaki
Department of Chemistry, Faculty of Science and Engineering, Ritsumeikan University
Noji-higashi 1-1-1, Kusatsu-shi, Shiga 525, Japan
本稿では、1995年および1996年に発表された半導体ガスセンサに関する論文を、1)SnO2の調製および特性、2)可燃性ガス、3)環境ガス、4)におい物質、5)パターン認識に分類し、紹介する。ここでは、主に電気抵抗型、ヘテロ接合型、ならびに容量型のセンサについて取り上げ、ダイオード型、FET型の半導体ガスセンサでH2などの可燃性ガスを検知するものについては、化学センサ1995/1996 - 可燃性ガスセンサを参照されたい。1)では、ガス検知特性の測定は行っていないが、半導体ガスセンサの主流であるSnO2の調製および特性に関して調べているものについて報告する。2)〜4)では、種々の半導体材料を用いたセンサにより特定ガスの検知を行っている論文について、5)ではセンサアレイを用いたパターン認識によりガスの識別を行っている論文について紹介する。
半導体ガスセンサに関する総説として、Meixnerら1)は、ヨーロッパにおける半導体ガスセンサ研究をふりかえってまとめている。また、ペロブスカイト型酸化物やヘテロポリ酸を含む68種の酸化物を試験し、特にガス選択性、湿度による影響、長期安定性、再現性、ウォームアップ時間などにおいて見られる諸問題をクリアするための方向性を示唆している。その他には、著者らのレビューがあるので参照されたい2, 3)。
絶縁性電解重合膜を利用したバイオセンサの設計
逢坂 哲彌,駒場 慎一,瀬山 倫子
早稲田大学理工学部応用化学科・早稲田大学材料技術研究所
〒169 東京都新宿区大久保3-4-1
Design of Biosensors Based on the Insulating Electropolymerized Polymer
Tetsuya Osaka, Shinichi Komaba, Michiko Seyama
Department of Applied Chemistry, School of Science and Engineering; Kagami Memorial Laboratory for Materials Science and Technology, Waseda University
3-4-1 Okubo, Shinjuku-ku, Tokyo 169, Japan
Insulating polypyrrole (PPy) film, produced by electrodeposition from the aqueous solution of pyrrole monomer and nucleophilic electrolyte shows a Nernstian response to pH values. By combining the insulating PPy with the pH change by enzymatic hydrolysis of urea, the potentiometric urea sensor can be fabricated. In order to immobilize much urease in the PPy film to obtain higher sensitivity of a urea sensor, some preparation procedures were invented. In those procedures, the polyion complex immobilization was the most suitable method to give the highest sensitivity as a urea sensor.
はじめに
バイオセンサにおける酵素固定化方法として電解重合膜が注目され始めたのは,主にグルコースセンサ等のアンペロメトリックバイオセンサにおいてである1).それらのセンサは電解重合導電性高分子膜に酵素を固定した構造を持ち,その測定原理は酵素が触媒する酸化還元反応に起因する電気化学的活性物質の濃度変化を電流として検出するものである.このように電解重合法により成膜された高分子は,電極上への選択的な析出や容易な膜厚制御等の点から,マイクロセンサ材料として期待されている.しかしながら,電解重合中に酵素を固定化するこれらの手法では,固定化量が少ないことや,求核副反応による導電性高分子マトリクスの導電率低下による応答感度の劣化,等の問題点がある.そこで全く逆の発想から,電解重合時の副反応を積極的に進行させ絶縁性高分子被覆電極を作製したところ,この修飾電極はpHに対して安定したネルンスト応答を示し,耐久性の高い膜であることが分かった.筆者らは,この絶縁性高分子膜と反応前後でpH変化を生じる酵素とを組み合わせたバイオセンサの作製を行っており,また酵素固定化を安定にかつ多量に行える方法についても検討している.本稿では,まずpH応答性絶縁性ポリピロール(PPy)薄膜について概説し,次に尿素加水分解酵素ウレアーゼをこの絶縁性PPyに組み合わせた尿素センサについて解説する.
('96年9月17〜18日 於 立命館大学理工学部びわこ・くさつキャンパス)
佐藤 生男(神奈川工科大学工学部)
南戸 秀仁(金沢工業大学工学部)
今中 信人(大阪大学大学院工学研究科)
Ikuo Satoh (Kanagawa Inst. Technol.)
Hidehito Nanto (Kanazawa Inst. Technol.)
Nobuhito Imanaka (Osaka Univ.)
特別講演2件を含めすべての講演発表の内容を簡潔に紹介したもの。詳細は機関誌 Chemical Sensors を参照されたい。
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