Chemical Sensors

Vol. 12, No. 1 (1996)


Abstracts



エミッションセンサ

清 田 文 夫

リケン・取締役

Emission Sensors

Fumio KIYOTA

Riken Co.

 地方に在住していることから、毎日の通勤には自動車を使用している。休日にもトランクの中にゴルフクラブ、農作業道具、スーパーの買い物袋などを積み変えては運転している。ハンドルを握らない日は、長期出張の時ぐらいである。アルコール抜きでなければ運転できない不便さはあるものの、自動車は快適で利便性に富んだ乗り物であり運搬道具である。
 この便利な自動車の保有台数は、1993年度には既に全世界で6.3億台、8.5人に1台の割合にまで増加している。文献によれば、これらの自動車が吐き出す窒素酸化物の量は、約22百万トンで年間総排出量の半分を占めているとのことである。またCOの量は6.5百万トンで年間総排出量の25%を占めており、HCxも自動車が主な発生源とされている。
 ある講演会で聞いた話であるが、生物学的には人間は「ホモ・サピエンス」と呼ばれ「考える」ことなど知的な活動をする生物とされている他に、別の言い方では「モノを作る」生物としての意味の「ホモ・ファーベル」とも呼ばれているのだそうである。なるほど、石器時代から今日に至るまで、人類の歴史はモノづくりの歴史でもある。特に今世紀にいたっては、めったやたらにいろんなモノを作り出してきている。数の少ないうちは、利便性の陰に隠れて、作り出したモノがもたらすマイナス面には、あまり目が行かない。身の回りに溢れるような数になって、マイナス面がクローズアップされてくるようだ。
 現在ガソリン車では3元触媒と酸素センサの絶妙の組み合わせによって、排気ガス浄化システムは成立している。しかし、この浄化システムの経年変化に対する自己診断機能の義務づけや、希薄燃焼化への対応、HCx排出量の低減などが今後の課題としてあげられている。ヂーゼル車については、これから長期の排気ガス規制が実施されるが、燃焼改善だけで対応できる排気レベルのようである。更に低いレベルにするためには、ガソリン車と同様に触媒による浄化システムが不可欠とされている。これらの社会的なニーズに対応するには、キーデバイスとして燃焼制御や自己診断用の新たなエミッションセンサが必要であるように思える。
 物理センサに比べ、ガスセンサの実用化はストレスの複雑さから非常に困難である。多様な使用環境に長期間耐える車載用の酸素センサを実用化したことは、これまでの化学センサの研究分野における偉大なアウトプットであった。化石燃料に依存した自動車の時代は、なお続きそうである。ガスセンサの研究に携わる「ホモ・ファーベル」達の次の大きな課題は、新たな車載用のエミッションセンサを創り出し実用化することではないだろうか。




能動型においセンシングシステム

中 本 高 道

東京工業大学工学部
〒152 東京都目黒区大岡山 2-12-1

Active Odor Sensing System

Takamichi NAKAMOTO

Faculty of Engineering, Tokyo Institute of Technology
2-12-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152, Japan

はじめに
 現在、においをセンシングするシステムの研究が活発に行われている。においの検査は通常、人間による官能検査により行われているが、日々の体調、気分に依存するために客観的な評価法の開発が望まれている。さらに、人間は多くのにおいを短時間で嗅ぎ分けるのは難しく、すぐ疲労してしまう。これらの問題を解決するために、センシングシステムが有用であり、開発が待たれている。においの計測は、食品、飲料、化粧品、環境計測等多くの分野で必要とされており、広い分野に渡って重要なテーマとなっている。
ガスの分析法としてはガスクロマトグラフ法(以下GC法と略す)がよく知られており、においの分析にも使われている。GC法はにおいを構成する分子種の定量分析として優れているが、前処理の時間も含めて測定時間がかかる、試料を高温にされす必要がある、人間の官能検査の結果と必ずしも対応しないなどの問題点がある。そこで、センサを用いたにおい計測法が注目されている。
 センサを用いる場合、単一センサでは特定のにおいに対する十分な選択性が得られない。生体嗅覚では、嗅細胞の特異性が低く複数の嗅細胞の出力パターンが嗅覚神経系でパターン認識され、においの識別が行われていると言われており、この生体嗅覚の仕組みを真似ることによりにおいに対する識別能力の向上を実現できる。センサとしては、半導体ガスセンサ、水晶振動子ガスセンサ、SAW(Surface Acoustic Wave)センサ、電気化学センサ、導電性ポリマと多変量解析を組み合わせて主に有機ガスの識別を行う方法が提案されている。
 筆者のグループは、複数水晶振動子ガスセンサの出力パターンをニューラルネットでパターン認識することにより洋酒、香料等のにおいの種類の識別を行うことができることを報告した。筆者らの開発したシステムにより微妙なにおいの違いを識別することが可能である。また、におい間の類似性、におい感覚量を測定するシステムの研究を行い、感覚量推定に有効なセンサ感応膜の選択法を検討した。さらにハードウェア化したニューラルネットによるにおい識別実験も行っている。
 この分野の研究者は次第に増えて先年行われたセンサとアクチュエータの国際会議においても活発な発表が行われた。筆者らの発表を契機にして、複数センサ出力パターンをニューラルネットでパターン認識する方式の発表が相次ぎ、今ではこれが標準の研究スタイルの一つとして定着したような感がある。本稿では、その発展したセンシングの形態である能動センシング手法について紹介する。




アビジン・ビオチン法による酸素固定化とバイオセンサーへの応用

安 斉 順 一

東北大学薬学
〒980-77 仙台市青葉区荒巻字青葉

Enzyme Immobilization based on avidin-biotin system and its use in biosensors

Jun-ichi ANZAI

Pharmaceutical Institute, Tohoku University
Aobayama, Sendai 980-77, Japan

Avidin is a highly stable glycoprotein (molecular mass:67,000) found in egg white. It is isolated as a tetramer of an identical polypeptide composed of 128 amino acid residues. The interesting feature of avidin is that each subunit contains a binding site to biotin and forms a highly stable complex with biotin or its derivatives, the association constant being reported to be ca. 1015 M-1. Therefore, a single avidin molecule can bind four biotin residues simultaneously. Because of the specific and strong binding interaction, the avidin-biotin system has been used for a variety of fields such as affinity chromatography and immuno-chemistry.
The avidin-biotin system has been also utilized for enzyme immobilization on the surface of electrode to fabricate enzyme sensors. We have developed new techniques for avidin-biotin system-based enzyme immobilization: (1)enzyme immobilization on LB film-modified electrode, (2)electrodeposition of active avidin film, and (3)enzyme multilayer formation. The first method is eacy toprepare enzyme sensors, although the stability of the sensors are not satisfactory due to poor adhesion between the electrode and LB film. The second technique is useful to prepare high response biosensors, the life of which is satisfactorily long. Using the third technique, monolayers of avidin and biotin-tagged enzyme can be deposited in layer-by-layer ftructure on the electrode surface. The output signal of the sensors thus prepared depends linearly on the number of enzyme layers. This technique can be appplied to prepare bi-enzyme biosensor, which is equipped with glucose oxidase and ascorbate oxidase. The bi-enzyme biosensor can be used for the determination of glucose without interference from ascorbate.

はじめに
 バイオセンサーを作製する際に、酸素や抗体などのタンパク質をどのようにして電極等に固定化するかは大変重要な課題である。これまで種々の方法が開発されているが、それぞれに一長一短がありバイオセンサーの使用目的に合わせて適宜選択することが必要である。筆者らは、酸素をナノメーター程度の厚さの薄膜として、かつ膜構造をある程度制御しながら固定化するために、アビジン・ビオチン法に基づく方法を検討しているので本稿で紹介する。




The 8 th International Conference on Solid-State Chemical Sensors and Actuators-Eurosensors IX

(‘95年6月25〜29日 於 Linkoping 工科大学、Sweden)

江頭  誠 (長崎大学工学部)
栗山 敏秀 (日本電気)
佐藤 生男 (神奈川工科大学工学部)
清水 陽一 (九州工業大学工学部)
松口 正信 (愛媛大学工学部)
三浦 則雄 (九州大学大学院総合理工学研究科)
内田 秀和 (埼玉大学工学部)
勝部 昭明 (埼玉大学工学部)

The 8th International Conference on Solid-State Chemical Sensors and Actuators-Eurosensors IX

Makoto EGASHIRA (Nagasaki Univ.)
Toshihide KURIYAMA (NEC Corp.)
Ikuo SATOH (Kanagawa Inst. of Technol.)
Youichi SHIMIZU (Kyushu Inst. of Technol.)
Masanobu MATSUGUCHI (Ehime Univ.)
Norio MIURA (Kyushu Univ.)
Hidekazu UCHIDA (Saitama Univ.)
Teruaki KATSUBE (Saitama Univ.)



1995年環太平洋国際化学会議

('95年12月17日〜22日 於 Honolulu, Hawaii, USA)

石原 達己 (大分大学工学部)
矢吹 聡一 (生命工学工業技術研究所)
長谷部 靖 (埼玉工業大学工学部)

1995 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies

Tatsumi ISHIHARA (Oita Univ.)
Soichi YABUKI (Nat'l Inst. Bioscinec & Human-Technol.)
Yasushi HASEBE (Saitama Inst. Technol.)



第22回化学センサ研究発表会

('96年4月3日〜4日 於 東京農工大学工学部キャンパス)

清水 康博 (長崎大学工学部)
南戸 秀仁 (金沢工業大学)
外山  滋 (国立身体障害者リハビリテーションセンター)

The 22th Chemical Sensor Symposium

Yasuhiro SHIMIZU (Nagasaki Univ.)
Hidehito NANTO (Kanazawa Inst. Technol.)
Shigeru TOYAMA (Nat'l Rehabilitation Center for Disabled)


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