Chemical Sensors

Vol. 10, No. 3 (1994)


Abstracts



新しい化学センサの研究に向けて

吉見 幸一

日本電気(株)資源環境技術研究所・所長

Methodology for Future Chemical Sensors

Koichi YOSHIMI

General Manager, Resources and Environment Protection Research Laboratories, NEC Corporation

 この夏スコットランドを旅した。緑色にはこんなにたくさんの種類があったのかとあらためて驚くほどの鮮やかで、色とりどりの牧草地の広がりに圧倒された。それと同時になつかしい草木の匂いにさわやかな清涼剤を飲んだときの心地よさを感じ、人間と自然の関わりの原点を改めて実感した。人間の精神状態は五感と密接につながっており、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚の知覚は文化とも深くかかわっている。ある土地に特有の景観、匂いがありその地の人々が共有する事によってその土地、地方に特有の文化、文明が形成されるのであろう。
 人類の活動が地球の本来持つ循環浄化作用に大きく影響を与えるようになり、環境適合型の経済活動、生活体系の推進の必要性が認識されその努力がなされ始めている。この際重要なことは広義の環境状況の正確な把握であり、環境モニタリング技術の一層の発展が必要になって来ており、センサの重要性が増している。
 センサの基本は人工物を含めての自然現象の変化を別のパラメータに変換するトランスジューサであり、人間の五感を時間、空間的に増倍、拡張するものである。これにより我々の活動範囲を飛躍的に広げると共に、変化の兆候をいち早く把握する事に貢献している。センサとして動作するメカニズムは機械的なもの、物理的なもの、化学的なものと多種多様にあるが、新しいセンサとして化学センサに大いに期待している。とりわけ自然界の現象を把握するためには自然が何億年とかけて進化させてきた生物学的なメカニズムが大きなヒントを与えてくれそうな予感がする。酸素反応を用いた血液中のグルコースや脂質の濃度測定、人体に害となる有機物の検出などの研究がなされつつある。さらにバイオセンサは食品の鮮度測定、匂い検出などにも適用が検討されている。新しいセンサの着想を得るためには自然現象の原点に立ってメカニズムを深く探求するとともに、全体的な視野から他の現象、メカニズムとうまく結びつけることが大切であり、これが自然界が長い時間をかけて突然変異の現象を取り込みながら進化したプロセスとも相通ずるものである。新しい着想を粘り強く研究し、ここぞと言う時に精力的に研究を完成させタイミング良く応用に結び付けなければならない。
 Perception(着想)、Persistence(ねばり強さ)、Power(瞬発力)の3Pを念頭に置き、各方面から化学センサの研究を押し進めることにより、本研究会がますます発展することを期待したい。




固体電解質ガスセンサ

桑田茂樹、青野宏通

新居浜工業高等専門学校工業化学科
〒792 愛媛県新居浜市

Chemical Sensors 1993-Solid Electrolyte Gas Sensors

Shigeki KUWATA, Hiromichi AONO

Department of Industrial Chemistry, Niihama National College of Technology
Niihama, Ehime 792, Japan

 1993年後半〜1994年前半にかけて発表された固体電解質ガスセンサに関する論文を1)O2ガスセンサ、2)H2ガスセンサ、3)CO2ガスセンサ、4)COガスセンサ、5)その他のガスセンサに分類し、その内容を紹介する。




湿度センサ

松口 正信

愛媛大学工学部応用化学科
〒790 松山市文教町3

Chemical Sensors 1993-Humidity Sensors

Masanobu MATSUGUCHI

Faculty of Engineering, Ehime University
3-Bunkyo-cho, Matsuyama 790, Japan

緒言
 湿度センサに関する1993年後半から1994年前半における研究動向を、その検出原理、及び材料の種類によって分類しまとめた。発表件数は全部で31件と、例年とほとんど変わりなかったが、この中から漏れているものもあると思う。ご容赦願いたい。




バイオセンサ

水谷 文雄

生命工学工業技術研究所
〒305 茨城県つくば市東1-1

Chemical Sensors 1993-Biosensors

National Institute of Bioscience and Human-Technology
1-1 Higashi Tsukuba, Ibaraki 305, Japan

 本稿では1993年に発表されたバイオセンサに関する論文を紹介する。第4回化学センサ国際会議での発表論文がSensors and Actuators Bに掲載されたこともあり、報告数は急増している。特にアンペロメトリック酵素センサの高性能化の研究、及び光学デバイスあるいは圧電素子をトランスデューサとする免疫センサの研究の活発化は特記に値する。
 なお、紙面の関係もあって個々の研究についての内容の紹介が十分にできないことをお許し願いたい。




嗅覚神経系による匂い分子識別機構

森  憲作

大阪バイオサイエンス研究所・神経科学部門
〒565 大阪府吹田市古江台6-2-4

Recogition and Discrimination of Odor Molecules by Olfactory Nervous System

Kensaku MORI

Department of Neuroscience, Osaka Bioscience Institute
6-2-4 Furuedai Suita, Osaka 565, Japan

Mammalian olfactory system has neuronal mechanisms underlying recognition and discrimination of an immense number of different odor molecules. In addition, the central olfactory nervous system in mammals has evolved to compute the odor molecular information for constructing the olfactory image of objects.
Recent molecular biological and physiological studies on the olfactory system revealed several interesting organizational and functional principles both at the level of sensory neurons in the olfactory epithelium and at the level of axonal connection to the olfactory bulb, the first relay station of the central olfactory system.
As the basic knowledge of the organizational principles of the olfactory system would be useful in planning the atrificial chemical sensors and the computational network systems that handle with the molecular information, the recent advance of the knowledge was summerized.
This review focuses with following topics: (1)structure of olfactory sensory neurons, (2)signal transduction molecules in olfactory sensory neurons, (3)repertoire of odor receptor proteins and selection of odor receptor protein by individual sensory neurons, (4)receptive site in the odor receptor protein, (5)spatial arrangement of sensory neurons in the olfactory epithelium, (6)organizational principles of axonal connection between olfactory epithelium and the olfactory bulb.

緒言
 嗅覚神経系は、バラの花などの対象物から発せられる多種多様な匂い分子を受容し識別する「分子認識システム」を備えている。嗅覚神経系はさらに、受容した匂い分子群から得られる情報に基づき、無数にある対象物(たとえばバラ、ホットコーヒー、焼きたてのパンなど)の嗅覚イメージを形成する中枢神経系をも備えている。
 匂い分子は分子量が25-300Da程度の小さな揮発性化合物であるが、現在ヒトが感じる有香分子(匂いを持つ化合物)は40万種類を越えると推測されている。これ程までに多種多様な匂い分子を嗅覚神経系はどのようにして受容し、識別するのだろうか。
 嗅覚神経系の研究は、視覚や聴覚等の他の感覚神経系の研究と比較して、これまであまり進んではいなかった。しかし、最近になって匂い分子受容体群が発見され、受容細胞(嗅細胞)における匂い分子の受容及びその信号を電気信号に変換する分子機構等の分子生物学的な研究が急速に展開されるようになってきた[1-3]。またこれと並行して、脳内の神経回路(たとえば嗅球の神経回路)における匂い分子情報処理の原理も生物学的な研究により明らかになりつつある[4-7]。化学センサの研究にとって、哺乳類の嗅覚神経系の構成原理や機能原理の知識が有用であろうと思われるので、本稿では嗅覚神経系の分子生物学的および生理学的研究の最近の成果をまとめ、その機能原理について議論する。



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