Chemical Sensors
Vol. 10, No. 2 (1994)
Abstracts
“なまこ”雑感
松 浦 俊 二
フィガロ技研株式会社・専務取締役
"For what purpose should we use the new developed Chemical Sensor"
Shunji MATSUURA
Managing Director, Figaro Eng. Inc:)
私の育った山口県の徳山湾は、有数の“なまこ”の産地である。特に冬季には、大量の“なまこ”が採取され、そのまま食用に供したり、内臓や卵巣を塩漬けにして“このわた”や“このこ”を作る。又一部には加工して“乾燥なまこ”とひて、中華料理の本場中国大陸へも輸出されている。この英語で、sea-cu cumberと呼ばれるグロテスクな生物を初めて食べてみた人類は、「“ふく”(山口県ではふぐといわない)をこよなく愛した伊藤博文より勇敢な人だったろう?」と、子供心に感心したものである。“なまこ”はみかけは悪いが、肉の固い赤いナマコ(関東では肉の青い軟らかい方が好まれるときくが)をぶつ切りにして、大根おろしをかけてスダチかカボスを上からしぼると冬の熱燗が特にうまい。又、“このわた”が出てくると更に晩酌が一本ふえる。“なまこ”が何故このような形態になったかを生物学者に解説させると、彼らは海底の砂の上で暮らしており、砂にくっついたバクテリヤや微生物を食しているので、砂の上で何の苦労もなく生きてゆけるので、あのような形態になったのだという。(もっとも水温が16℃以上になると60cmももぐって夏眠するという努力をすることをつけ加えておく。)
いま、我々の周辺には多くのセンサがどんどん開発され、それを組み込んだ多くの自動化システムが誕生している。更にそれが情報処理システムに組み込まれていくと、そのうちマルチメディアの端末キーを叩くと、我々は畳の上にすわりこんだままで、部屋の照明を変えたり室内雰囲気を快適に調整したり、遠方の会社と連絡をとったり、あげくは食事まで出てくるようになることはそんなに難しいことではない。ただ、このシステムを健康な人が使うとすれば、その人は手足が退化し、頭ばっかし大きくなってダルマになり、そのうち“なまこ”になってしまうことは受け合いである。しかしこのシステムを、手足の不自由な人や病気の老人達に提供できたら、これはその人達の人生を従来よりも数段明るくしてあげることができるし、その能力を更に生かして活きた社会復帰が可能になるであろう。新しい科学の進歩の中で、有用な化学センサを開発し、経済的な価格で社会に提供するという使命をもつ本会は、“なまこ”を作り出すのではなく、より安全な生活を約束したり、病気の人の治療をより確実にしたり、不幸な人を少しでも明るい生活に導くことを目標に頑張っていきたいものである。微力なものではあるが、役員のはしくれとして皆様と共に努力していきたいと思い、このつたない駄文を書いた次第である。
イオンセンサ
梅澤 喜夫・菅原 正雄・遠田 浩司・Phillipe Buhlmann・谷 幸則・西沢 精一・雨宮 成・伊藤 貴志・木村 晋朗
東京大学大学院理学系研究科
〒113 東京都文京区本郷7-3-1
Chemical Sensors 1993/94- Ion Sensors
Yoshio UMEZAWA, Masao SUGAWARA, Koji TOHDA, Phillipe BUHLMANN, Yukinori TANI, Seiichi NISHIZAWA, Shigeru AMEMIYA, Takashi ITO, Nobuaki KIMURA
School of Science, The University of Tokyo
Hongo Bunkyo-ku, Tokyo 113, Japan
緒言
昨年に引き続き、1993年5月から1994年6月に発表されたイオンセンサ及びそれに関連した論文をもとに、固体膜、液体膜、単分子膜及びLangmuir-Blodgett(LB)膜、二分子膜、高分子膜の区分けで最近の進歩をまとめた。いずれも筆者らの興味を中心に重要と思われるものを取り上げたが、それ以外にも多くの重要な研究が発表されていると思われる。誌面の都合上すべてを紹介できないことを御容赦願いたい。なお、Analytical Chemistry誌に化学センサの総説が掲載されているので合わせて参照されたい。
固体電解質を用いた高感度NOxセンサの開発
三浦 則雄・山添 f
九大総合理工学研究科
〒816 福岡県春日市春日公園6-1
Development of Highly Sensitive NOx Sensors Using Solid Electrolyte
Norio MIURA, Noboru YAMAZOE
Department of Materials Science and Technology, Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu University
Kasuga-shi, Fukuoka 816, Japan
Development of solid-state electrochemical devices for detecting NOx is demonstrated based on various combination of solid electrolytes and auxiliary sensing materials. An NO2 sensor is obtained when an Na ion conductors attached with NaNO3, but this sensor should be operated at rather low temperatures in addition to being incapable of detecting NO. Higher temperature operation is achieved when NaNO3 is replaced partically or completely by Ba(NO3)2. The use of NaNO2, on the other hand, makes the device excellently responding to both NO and NO2. Surprisingly the responses of these sensors to NO and NO2 are totally independent of coexistent oxygen. Furthermore, it was found that the use of NaNO2-Li2CO3 (9:1 in molar ratio) gave quite excellent sensing properties especially to extremely dilute NO2. The electromotive force of the device followed the Nernst's equation in the wide NO2 concentration range of 0.005 ppm (5 ppb)-200 ppm at 150℃, its slope suggesting the one-electron reduction of NO2. The 90% response times of the sensor to 10 ppm and 5 ppb were ca. 8 s and ca. 3 min, respectively. In addition, the device was found to be utterly insensitive to CO2 up to 40 vol.%.
緒言
代表的な大気汚染物質の1つである窒素酸化物は一括してNOxと称されるが、このうち特に重要なのはNOとNO2である。このNOxは燃焼炉や内燃機関等から主に排出され、酸性雨や光化学スモッグなどの地球環境問題を引き起こしている。従って、排ガス中や大気中のNOx濃度の簡便、迅速で精度の高い検出は、最近特に重要視されている。一般に燃焼排ガス中ではNOがNO2よりも圧倒的に多く存在する。一方、大気環境中では、人体に有害なNO2の計測が重要である。従って、煙道中ではNOを、大気環境中ではNO2を検出することが望まれる。
現行のNOx濃度の計測法としては、赤外線分析や化学発光分析などの分析機器を用いる方法が一般的である。これらの方法は計測の精度は比較的高いが、前処理を伴う操作がはん雑で時間がかかり、装置が大型で高価といった難点がある。このような分析装置以外に小型の定電位電解式センサやイオン電極(ガス感応電極)も実用に供されているが、これらは電解質溶液を用いており全固体型ではない。これらの難点を克服できるものとして、小型で安価な全固体素子型NOxセンサが注目されている。これまでに酸化物半導体、有機半導体、固体電解質、SAWデバイス等を用いた多くの報告例があるが、実用化されているのはTiO2系半導体センサだけである。
固体電解質を用いるセンサについては、ガス選択性や素子構造のシンプルさなどの点から考えて、実用的なNOxセンサとして特に有望と思われる。固体電解質NOxセンサは、1977年にGauthierらによりSOx、CO2センサなどの原理とともに初めて提案された。この場合、固体電解質としてはBa(NO3)2(+1 mol%AgCl)のディスクを用い、これを隔壁とした図1のようなセンサ素子を作製し、NO2に対する応答を調べている。Weppnerの固体電解質ガスセンサの分類に従うと、このセンサは検知極反応において被検ガスから生成するイオン種が固定電解質の可動イオンと一致するタイプIIに属する。その後の研究例は、我々がNOxセンサについての研究を開始した1989年以前までに限ると、表1に示すようにあまり数は多くない。固体電解質としてはAg+導電体やNa+導電体が使われており、これら固体電解質と同種の導電イオン種を有するAgNO3やNaNO3がガス検知層用のいわゆる補助相として組み合わせて用いられている。このような補助相を用いるものはタイプIIIとして分類される。図2には、Weppnerらにより報告された補助相を用いるタイプのセンサ素子の構造を示した。このような起電力検出方式だけでなく表1に示すように電流検出方式も採用されている。この場合のNO2検知濃度はppbレベルとかなり低いが、不活性ガス中での検知に限られている。NO検知例としては、最近、Ag+導電体を用いた起電力検出方式の素子が報告されているが、NOの測定濃度範囲が100 ppm以上とかなり高い。このように固体電解質NOxセンサについてはまだ研究例も少ない。さらに、以下に示すように、実用的な固定電解質NOxセンサを開発するに当たっては、まだいくつかの検討課題が残されている。
a) 作動温度の限界…硝酸塩を補助相として用いる場合、その融点が作動温度の上限となる。例えば、AgNO3では212℃、NaNO3では307℃である。
b) NO感度…排ガス中では通常、NO2よりもNO濃度の方が一桁近く高いが、固体電解質NOxセンサでNOの直接検知を試みた例はない。
(AgNO3やPtがNOの酸化触媒として機能しているとする報告はある。)
c) 極低濃度NO2の検知…大気環境中のNO2の濃度は数ppb〜数十ppbと非常に低レベルであるが、これまでの起電力方式のセンサでは数ppm以上の濃度のNO2しか検出されていない。(上述のように、電流検出方式の場合には不活性ガス中の低濃度NO2が対象)そのため、補助相材料の検討によるさらなるNO2感度の向上が望まれる。
d) 他ガスの妨害…実際的なNOx検知では、共存するO2、CO2、水蒸気、炭化水素などの妨害効果についての検討が必要であるが、これまでの報告ではほとんど検討されていない。
e) 応答性の向上…報告されたセンサでは、特に低濃度NO2に対する応答や高濃度NO2に対する回復があまり速くなく、改善が望まれる。
f) 検知機構の解明…検知極反応や補助相の役割などについての記述はこれまでの報告では少ない。センサ材料の探索、設計を行う際にはこれらの情報は欠かせない。
このような問題点の中で、我々は特に高温作動、NO検知、及びNO2感度の向上を目指して、2成分系や亜硝酸塩系などの新しい補助相材料についての探索、検討を行うとともに、まだ明確になっていない検知機構についても検討を加え、以下に示すような新しい知見を得た。
学会レポート 第18回化学センサ研究発表会
(4月3〜5日 於 東北大学)
今中 信人(大阪大学工学部)
松口 正信(愛媛大学工学部)
内山 俊一(埼玉工業大学工学部)
Conference Report. The 18th Chemical Sensor Symposium
Nobuhito IMANAKA (Osaka Univ.)
Masanobu MATSUGUCHI (Ehime Univ.)
Syun-ichi UCHIYAMA (Saitama Insti. Tech)
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