Chemical Sensors
Vol. 10, No. 1 (1994)
Abstracts
家電製品から見た化学センサへの期待
長谷川 知治
三菱電機(株)生活システム開発研究所・所長
Expectation of Chemical Sensors for Consumer Electronics
Tomoharu HASEGAWA
General Manager, Living environment Systems Laboratory, Mitsubishi electric Co., Ltd.
バブル経済が崩墳して景気の低迷が続いているが、今後景気が回復するとしても家庭電化製品においても従来とは異なる製品のコンセプトが必要と考えられる。生活者が本当に必要とする本質的な機能の充実、生活者の新しいニーズに応える新製品の開発など、生活者の立場に立った便利さ、使いやすさと共に地球環境にやさしいリサイクル性や省エネルギーが要求される。
家電製品は、空調・換気・空気清浄機器、冷蔵庫、調理機器、浄水器、冷温水器など、空気質、食品、水などの化学成分との関連が深く、こうした化学物質を上手にコントロールして。‘快適’、‘利便’、‘健康’といった生活者の欲求を実現しようとしているが、これらの物質をコントロールする上で化学センサの果たす役割が大きい。
しかし、これまでの家電製品において化学センサが十分に活用されてきたとは必ずしも言い難い。その理由にはいくつかの点が挙げられる。ひとつには家電製品は一般に5〜10年くらいの、製品寿命が要求されるとともに、消費者の手に渡ってからのメンテナンスが困難であり、センサには高度な信頼性と寿命が要求されるのに対して、化学センサにはこれらの要求に十分応える信頼性が確立されていない場合があるという点である。もう一つは、家電製品の性格上コスト的要求がきびしく、制御回路を含めて低コスト化を実現しなければならない点であろう。
半導体や液晶、電池などの電子デバイスについては、部品メーカーとユーザーである機器メーカーとの間の相互の努力からによって改良が積み重ねられて高度な信頼性を得られる状態に達し、この努力は現在も続けられている。化学センサにおいても、センサメーカーと機器メーカーとの密度の高い連携による信頼性向上の努力が必要であるだけでなく、化学センサの本質的な安定性を実現する新しい原理の研究や、均一な特性のセンサを安定して生産できる生産方式の研究などが期待される。半導体の歴史が高集積化、高機能化と同時に安定な品質を目指す生産技徳の開発の歴史であったように、化学センサにもこのような努力の積み重ねが新たな展開上必要になってきていると考えられる。
前述したように家電製品は生活者と直接接点をもつことから、来るべき21世紀の感性社会において要求されるであろう、人間感覚にとってたとえば快適でやさしい家電製品の実現に、化学センサの果たすべき役割は非常に大きいと考えられる。大学などの研究機関を中心として、センサメーカーと、機器メーカーとの意見交換、共同研究の場として本研究会の益々の発展を期待したい。
プロトン導電性固体電解質を用いた溶融金属中の水素濃度測定用水素センサ
矢嶋 保
(株)TYK研究所
〒507 岐阜県多治見市大畑町3-1
Hydrogen Sensor Using Proton Conducting Solid electrolyte for the Measurement of Hydrogen Concentration in Molten Metal
The control of hydrogen concentration in molten metals is very important to make high quality castings. The hydrogen sensor is necessary to monitor hydrogen concentration in liquid metal directly and continuously. New type of hydrogen sensors can be constructed by using high temperature type proton conductor such as CaZrO3-based ceramics as a solid electrolyte. Using these sensors, it is possible to measure hydrogen content in molten aluminum, copper and zinc alloys directly and continuously, now. These sensors work stably and exhibits quick response. The reproducibilities are quite good.
緒言
高温で高いイオン導電性を示す固体電解質を用いると電池や化学センサなどの電気化学デバイスを構成することができる。特に、高温で良好なイオン導電性を示す固体電解質があると、金属の溶解鋳造プロセス管理用のセンサへの応用が期待できる。金属工業プロセス、特に製鋼プロセスにおいては、古くから安定化ジルコニアを用いた酸素センサが実用化されており、溶鋼中の酸素濃度を厳密に管理することにより圧延材や高品質製品の製造に大きく貢献している。
溶融金属中に溶解するガスとしては、酸素、窒素、水素、炭酸ガス等が考えられるが、これらの中でその存在が最も嫌われているガスとして水素がある。この水素ガスは、溶解工程中に雰囲気中の水蒸気や地金や耐火物に吸着している水分等から溶融金属中に溶解し、製品中に残り水素脆性やポロシティ(気泡)欠陥の原因となり古くから問題視されている。これまでは直接溶融金属中の水素濃度(活量)を測定する手段がなかったためにその詳細は十分に把握されていたとは言えなかった。
近年、著者らはペロブスカイト型酸化物プロトン導電体を用いて溶融金属中の水素濃度(活量)を測定することに成功た、その実用化している。このセンサを用いると溶融アルミニウム中の水素濃度を直接溶湯内で連続して測定することが可能になった。ここでは、現在実用化しているアルミニウム用水素センサを中心に、他の金属中の水素濃度測定への応用の可能性について述べる。
微小くし形電極を用いた高感度電気化学検出
丹羽 修
日本電信電話株式会社、NTT基礎研究所
〒243-01 神奈川県厚木市森の里若宮3-1
Highly Sensitive Electrochemical Detection using Interdigitated Array Microelectrodes
Osamu NIWA
NTT Basic Research Laboratories, Nippon Telegraph and Telephone Corporation
3-1 Morinosato wakamiya Atsugi-shi, Kanagawa 243-01, Japan
Highly sensitive electrochemical detection of redox species has been developed using interdigitated array (IDA) microelectrodes. IDA microelectrodes were fabricated from metal or carbon film by using photolithography and dry-etching. The redox cycling at the IDA enhances the current during voltammetric measurement, resulting in a large steady state current. The magnitude of the current at the IDA agrees well with those of theoretical value. IDA electrodes are particularly useful for the detection of redox species in the small volume because the redox cycling of the analyte maintains a constant analyte concentration during measurement.
A new type of stripping voltammetry utilizing the self induced redox cycling realized very low detection limit of 10 pmol/l by using the IDA coupled with glassy carbon electrode. The selective detection of dopamine was also achieved using the IDA modified with Nafion/polyester ionomer bilayer polymer film. Dopamine was detected quantitatively in the presence of 100-fold excess of L-ascorbic acid.
The IDA electrode was applied as a chromatographic detector coupled with microbore column. The magnitude of the peak current of this system is about 4 times greater than that measured for a combination of the same IDA and an rodinary sized column due to current enhancement by redox cycling in the slower stream. A detection limit of the liquid chromatography was improved by using the carbon based IDA electrode due to the low background current in both the anodic and cathodic potential regions.
緒言
微量物質を検出したり、物質の反応挙動を観察するために電気化学測定が多く用いられている。電気化学測定において電極面積をミクロンオーダーまで小さくしていくと電極への物質の拡散状態がリニアから球状に変化するため、単位時間、単位面積あたりに到達する物質量が増加する。その結果、観察される電流密度が増大し、従来の測定限界を凌駕することから微小電極が注目を集めている。[1-4]そこで、その特長を生かしたバイオセンサーをはじめとする各種センサー[5]、反応中間体の検出や反応過程の解析[6]、高抵抗溶液や固体中の電気化学反応[7]、さらには有機電子デバイス[8-10]などの研究が行われている。これたの微小電極を用いる電気化学測定の特長は以下のようになる。
1)電極が小さいため、電流値が小さくなり、IR-ドロップが減少する。このため、電気抵抗の高い試料の測定が可能になる。
2)電気二重層の充電電流が小さくなるため高速でS/N比の高い測定が可能になる。
3)拡散が等方的になるため、電流密度が高く、定常状態になる時間も速い。
近年、LSI作製技術を応用することにより、単なる円盤や線上の電極ばかりでなく、複雑な形状の微小電極を信頼性よく、効率的に作製することが可能になってきた。このため、電極形状や配置を工夫し電流増幅や選択性などの機能が得られることが分かってきた。
ここでは、微小くし形電極を例に取りその機能及び高感度電気化学検出器への応用についてふれる。
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