Chemical Sensors
Vol. 8, No. 2 (1992)
Abstracts
自然と人間
新田 恒治
松下電器産業(株)
取締役・中央研究所所長
Learning from the Nature
Tsuneharu NITTA
Matsushita Electric Industrial Co., Ltd.
ビックバンで生まれてから拡がり続ける宇宙の年令は約百五十億歳、この母なる地球の年令は四十六億歳といわれている。地球上での最初の生命体の誕生は三十五億年もまえのことで、以来、この地球を母とし、続々と新しい生命体が生まれてきた。今日確認されている動植物の種は百四十万とも百五十万ともいわれ、地球はこのように多種多様の生命体の棲家となっている。その内訳をみると、動物が百万種ぐらい、植物が三十万種前後である。一番多い種は昆虫で、何と八十万種前後も生存している。この地球の文明を創造しているヒトは種の数からみると、百万分の一の存在である。
母なる地球上に生存している多種多様の生命体を元素分析すると、地球の元素成分とは大変異なり、水素と酸素、炭素、窒素で九十六パーセントを占め、残りの数パーセントに二十数種の微量元素が含まれている。宇宙は元素の製造元といわれ、これらあらゆる元素は宇宙そのものから生まれたものである。現在の宇宙に存在するすべての物質は電子と陽子、中性子の三種の素粒子の組合せでできている。例えば、まず原子核と電子となり、ついで水素を生成し、さらに四個の水素が衝突し、ヘリウムができる。このようにして、次々と重い元素ができたと考えられている。生命体の元素構成は比較的単純ではあるが、その正体はごく一部しか解明されていない。例えば、六十兆という数字であるが、これは人間の体の細胞の総数である。平均体重六十キログラムとすると、一グラム当り十億個の細胞が含まれていることになる。しかもそれぞれが遺伝子情報をもって活動している。また人間の脳細胞に着目すると、平均して約百五十億個といわれる。これら脳細胞はたくさんの突起によって絡み合い、配線されている。その配線の長さも、何と千五百万キロメートルにもなり、地球を三百七十周もする長さである。このように、生命体の中身は天文学的な存在であり、興味深いが、手に負えないまことに恐るべき存在とでもいえる。
かかる雑ごとを長々と書いたのは、今日はあらゆる面での転換が求められているからである。すなわち、これまでの工業化社会形成に大きな役割を果たしてきた科学技術も、どちらかといえば、「自然の征服」という概念とともに進んできたように思う。物質至上主義の科学技術であり、文明であったといえる。
今や日本は情報ネットワーク社会という新しい産業社会への転換の時代といわれる。まさに、人間中心の社会である。この社会を実現するためには、生命体すなわち自然の複雑さの中に真理を求めることが必要である。したがって、再び「自然から学ぶ」という態度に戻らなければならないと考える。人間と科学技術そして自然といかに調和するか、いわば生物中心文明であるという認識である。
臨床検査用グルコースセンサ
上野山 晴三
(株)京都第一科学 研究開発部
〒601 京都市南区東九条西明田町57番地
Disposable Glucose Sensor for Clinical Use
Harumi UEYAMA
Research Department, Kyoto Dai-Ichi Kagaku Co., Ltd.
57 Nishi Aketa-cho, Higashi Kujo, Minami-ku, Kyoto 601, Japan
A disposable glucose sensor and its meter have been developed for clinical use. The sensor has an enzyme layer on the carbon electrodes printed on a PET film. The electrodes are coated with a hydrophilic polymer to remove the influence of blood cells. The enzyme layer is formed on the polymer layer by casting a mixture of the hydrophilic polymer, an enzyme, and a mediator. The meter has no switches. After a sensor is inserted into the connector of the meter, and on application of whole blood (5μl), the glucose concentration is automatically measured in 60 seconds.
はじめに
臨床検査分野では、固定化酵素電極を血中ブドウ糖センサに利用した自動分析装置が開発され、病院の中央検査室・臨床検査センタなどで多数検体の集中的な高速測定装置として使用されている。一方、緊急検査やベッドサイドでの日常検査など集中化になじまない検査の必要性も強く、種々の簡易装置も開発されてきた。簡易血糖計はそのような臨床現場の要求により開発され、二十数年の歴史を持つ。これは、グルコースオキシダーゼ(GOD)-ペルオキシダーゼ(POD)-発色色素からなる試薬を濾紙やフィルム上に固相化した試験紙を使用し、試験紙と血液中ブドウ糖との発色反応を反射率計で計測することを測定原理とする。試験紙は1検体ごとに使い捨てにされる。近年、糖尿病患者数の増加が著しく、患者自身が血糖値を管理することが重視されている。そのような医療事情の中で、上記の試験紙法による簡易血糖計は、医師の指導の下での患者の血糖自己管理用として活用されてきた。これに対し現在では、バイオセンサ法による簡易血糖計がメディセンス社および(株)京都第一科学により市場に提供され、試験紙法およびバイオセンサ法の血糖自己測定システムが併用されるに至っている。バイオセンサ法による簡易血糖計でも、試験紙法と同様にセンサは1検体で使い捨てされる。このようなバイオセンサの使用法は、従来の固定化酵素電極の場合とは非常に異なり、センサの材料・構成・製法・品質管理・コストなどの点で、異なった状況が生じている。
ここでは、筆者らの例を中心にバイオセンサ法による簡易血糖計の構成・動作・測定データ例などについて紹介する。なお、記述の便宜上、今回実用化された簡易血糖計の名称を「グルコカード」として説明する。
人工膵臓用グルコースセンサの開発について
伊藤 要・池田章一郎*
名古屋工業大学名誉教授
〒478 知多市佐布里字東金久曽
*名古屋工業大学応用化学科
〒466 名古屋市昭和区御器所町
Development Glucose Sensors for the Artificial Pancreas
Kaname ITO and Shoichiro IKEDA
Professor Emertus, Nagoya Institute of Technology
Saburi, Chita-shi, Nagoya 478, Japan
*Department of Applied Chemistry, Nagoya Institute of Technology
Gokiso-cho, Showa-ku, Nagoya 466, Japan
Development of a implantable miniature glucose sensor is a key technology for the development of a wearable or implantable artificial pancreas for the therapeutic and researching tools of diabetes mellitus. We have developed several kinds of glucose sensors composed of an immobilized enzyme membrane and electrochemical transducers, i. e., oxygen electrode systems of the Clark type and a Ti/TiO2-Ag/AgCl type. Although the artificial vessel access type glucose sensors were examined in human applications, the sensor structures have been changed to the subcutaneous types due to difficulties such as coagulation of blood and surgical operation. Recent type, ca. 1.1 mm in dia, and 15 mm in length, is based on a new type of oxygen electrode system, of which sensing and enzyme immobilizing site is located in the oxidized side-wall of a titanium wire (0.3 mm in dia.) electrode. The sensor linearly responds to the glucose concentration of 700 mg/dl. The shape of the miniature sensor is promising to immobilize the enzyme and coat the membranes easily, and also to be applicable to the living body with a smaller infection.
はじめに
筆者らがグルコースセンサの開発を手懸けるきっかけになったのは、昭和45年ごろ、名古屋大学医学部第二外科の近藤達平先生(当時助教授、現名誉教授)から、人工膵臓についての話があり、「血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値をうまく測定する方法はないか。」との相談を受けた。しばらくはどうしてよいかよくわからず、手をこまねいていたところ、Hicksらの酵素電極の論文が発表され、それが電気化学的なセンサであることがわかり、ちょうどよいからやってみようということになった。当時はバイオセンサと言うような用語も馴染みの薄い時代で、今日の隆盛をみるにつけ、隔世の感がする。以下、主に筆者らの人工膵臓用グルコースセンサの開発経過について述べる。
セラミック湿度センサ
八木 秀明
日本特殊陶業(株)中央研究所
〒485 小牧市大字岩崎2808
Ceramic Humidity Sensor
Hideaki YAGI
R & D Center, NGK Spark Plug Co., Ltd.,
2808 Iwasaki Komaki-shi, Aichi 485, Japan
Three types of ceramic humidity sensor have been developed. The first sensor, heat cleaning type is consisting of a humidity sensing element made of stable Al2O3, TiO2 and SnO2 which is provided with a ceramic heater as a cleaning mechanism. The second sensor, non-heat cleaning type is newly designed sensor, made of NASICON base ceramic. The third sensor, humidity sensor for high temperature utilizes a limiting current type plane oxygen sensor using ZrO2 electlyte. Structures and properties of the above sensors are described.
はじめに
従来、生産管理、品質向上や快適空間を求めるため環境制御は、湿度を中心に精度よく行われてきた。さらに、近年マイコンが非常に普及したことにより、自動制御システム化、生活環境のインテリジェント化、また産業分野での製造及び製品の品質管理、高精度制御による新素材の開発等から、検出端としての物理センサ、化学センサの開発が活発化している。物理センサは、温度センサで代表されるようにかなりの完成度に達してきていると思える。これに対し化学センサは、雰囲気センサとしてガスセンサが利用されてきたことに始まり、自動車の排ガス用酸素センサ等一部実用化されたものもあるが、今後の発展を期待されるものが多い。
湿度センサも例外でなく、実用面から精密工業、電子工業、食品工業および繊維工業等といった分野で湿度制御の必要性が改めて認識され始めてきた。近年の電気式湿度センサ(相対湿度センサ)としては、1938年Dunmoreにより開発された電解質型湿度センサが代表的なものである。このセンサが電子式湿度センサの唯一のものとして、約35年以上に渡って広く使用されてきた。しかし、一端結露したりすると塩化リチウムが溶出し、精度が極度に悪くなる、低温での作動が遅い、有機溶剤、アンモニア雰囲気での使用が出来ない等、湿度をコントロールできない分野が多くなり困っていた。そこでこれに変わるものとして、有機高分子系、セラミック系を使い抵抗変化または容量変化を利用したもの、発熱電動変化を利用したもの、α線や赤外線の吸収度を利用した複合系の高度な測定器まで、数多くの種類のセンサが開発され出した。その中で、セラミックを利用した湿度センサの開発、研究発表が最近特に多くなっている。セラミックのなかで金属酸化物が物理的、科学的かつ熱的にも安定であることから、古くから注目され、材料の選択、組成および形状、特に細孔分布の制御の知見が集積され、焼結技術の進歩とともに、この金属酸化物多孔質焼結体の湿度センサへの応用が一段と高まってきた。セラミック湿度センサには、色々の湿度検知方法があり、プロトン移動型(抵抗変化型)、半導体型、容量変化型、固体電解質型(酸素センサの利用)、p/n接触型に分類されるが、使いやすさ、量産性、周囲への影響、信頼性等から、プロトン移動型の湿度センサが圧倒的に多い。現在研究開発されているセラミック湿度センサを検出機構別に分類し、その原理、センサ材料、検出範囲をまとめたものを表1(略)に示す。
著者が過去10年間に渡り開発してきたセラミック湿度センサのうちまず第一のものは、一般空調から特殊空調、産業用湿度制御用のもので、センサ材料にAl2O3・TiO2・SnO2系を使い、センサの汚れに対しては定期的なセラミックヒータによる加熱クリーニング機構で、従来にない高信頼、高精度、メンテナンスフリーを達成したものである。第二は、一般空調向けとして、高いイオン伝導性をもつNASICON系材料を使用することにより、セラミック湿度センサの欠点である水の化学吸着による経時変化を抑えることができることを利用した非加熱型セラミック湿度センサである。第三番目は、100℃以上(300℃程度まで)の高温雰囲気下で、水蒸気を計測できるセンサであり、固体電解質ZrO2を使用し、新たに開発した平面型限界電流式酸素センサを応用したセラミック湿度センサである。これらのセラミック湿度センサの構造、基本的特性についての概要を述べる。
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