Chemical Sensors

Vol. 7, No. 1 (1991)


Abstracts



これからの10年

相澤 益男

東京工業大学生命理工学部教授

Toward Next Decade

Masuo AIZAWA

Tokyo Institute of Technology

 Chemical Sensorというコンセプトが我が国から提起されたのは1980年代初頭でありました。それが今や世界的に認知され、はっきりとした重要な研究領域を形成するまでになりました。この誇るべきシュプールこそ化学センサ研究会そのものの歩みでもあります。このたびはからずも化学センサ研究会会長をおおせつかり、その責の重さに身を引き締めておりますが、頭をよぎるのはこうした10年の重さにほかなりません。
 振り返れば、本研究会(当初はセンサ研究懇談会)がスタートした当時、実に多様な異種分野の人々が集いました。千差万別というほどセンサは多種性に富んでおりましたが、集まる人の多様さもひけをとりません。ところが今や化学センサという共通の場で研究するという一体感が育まれたといえましょう。
 1992年には我国で再び化学センサ国際会議が行われようとしています。時折しも、化学センサ研究会が次への飛躍を期すべきときでもあります。
 1980年代には、化学センサのコンセプトが確立され、フィールドが形成されました。その基礎は材料といえましょう。色々な機能材料を駆使して、次々と化学センサがつくられました。機能材料の最も手っとり早い応用は化学センサだという側面もありました。機能材料実用化の成功例が数多く化学センサにみられるのは、まさしくこうした状況を反映しています。
 1990年代を迎え、化学センサの基礎ともいえる分子認識のサイエンスも急速に展開しました。既存の機能材料を流用するだけでなく、化学センサのための分子認識材料の設計が進展すると思われます。計測技術も長足の進歩を遂げました。単分子層の分光学的計測、STMの様な単一分子の計測など極限計測が実現しています。微少信号処理技術も見逃せません。化学センサのファブリケーションに周辺領域の技術が多彩に応用されるようになりました。マイクロマシニング、分子ファブリケーションなど枚挙にいとまがありません。最後に、情報処理技術の重要性も益々高まってきました。とくに多次元情報の総合的判断を必要とするセンシングなど、感覚情報処理とも関連して目ざましい進展があります。
 21世紀に向けての10年、化学センサ研究はこうした科学と技術の総合化を迫られていると思われます。さらにセンシングデバイスからセンシングシステムへの展開が必要なときでもありましょう。




環境モニタリング用バイオセンサ

久保いづみ

創価大学工学部生物工学科
〒192 東京都八王子市丹木町

Biosensor for Environmental Monitoring

Isumi KUBO

Department of Bioengineering, Faculty of Engineering, Soka University
1-236 Tangi-cho Hachioji, Tokyo 192, Japan

Various biosensors have been proposed and developed already in Japan. Some of them were aimed to be applied to environmental monitoring. In this paper, the principles and characteristics for inorganic ions have been mentioned. One of them is an ammonia sensor for monitoring of waste water, one is a sulfur compounds sensor and the other is a phosphate sensor for waste and drinking water. These sensors are composed of a dissolved oxygen electrode and immobilized chemo-autotrophic bacteria (ammonia sensor, sulfur compounds sensor) or enzyme (phosphate sensor). These sensors are able to determine analytes with high selectivity.

はじめに
 バイオセンサは、おもに化学物質の定量に用いられているが、他の化学物質定量法と比較して、著しく高い選択性を有し、また短時間で簡便に測定できる点に特徴がある。このような特徴は、排水や大気のような多成分系試料の逐次測定に特に有効である。
 一方、広範な人間活動の結果、放出されている様々な化学物質の多くは、最終的には大気や水といった環境中に排出されている。これらの物質は地球環境に大きな影響を与えていると考えられているが、具体的にどこで何がどのような影響を与えているかについては、不明の点が多い。これを明らかにするためには、それぞれの場所での化学物質の濃度を逐次測定することが必要である。バイオセンサをこのような目的に利用することは、センサの特徴から、きわめて有用である。
 すでに、このような観点から、環境モニター用のバイオセンサの研究が進められている。Biochemical oxygen demand (BOD)センサ、アンモニアセンサ、NOxセンサ、SOxセンサ、リン酸センサなどが報告されている。この中には、BODセンサやアンモニアセンサのように実用化されているものもある。ここでは、著者が研究を行ってきた、アンモニア、リン酸、硫黄化合物などの無機物の計測を中心としたバイオセンサについて述べる。




セラミックヘテロ接触を用いた塩素ガス検知

宮山  勝

東京大学先端科学技術研究センター
〒153 東京都目黒区駒場4-6-1

Chlorine Gas Sensing Using Ceramic Hetero-Contacts

Masaru MIYAYAMA

Research Center for Advanced Science and Technology, University of Tokyo
4-6-1 Komaba Meguro-ku, Tokyo 153, Japan

Hetero-contacts of different semiconducting ceramics are promising systems for chemical sensors with novel functions. Chlorine gas sensing properties and proposed sensing mechanisms of SiC/ZnO system are described in the present paper. Changes in current-voltage characteristics in this system are assumed to be caused by the reaction products of Cl2 and adsorbed water with a strong oxidizing power. Similar sensing properties for NOx gases are also observed in this system.

はじめに
 セラミック半導体材料の表面抵抗変化を利用するガスセンサは、ガス漏れ警報機を始めとして、工業用、家庭用に広く用いられている。可燃性ガスに対する検知機構としては、センサ材料上に負電荷吸着した酸素が被検ガスとの反応により消費され、伝導電子の濃度や移動度が増大し抵抗減少を生じる、という機構が一般的に認められている。この原理からも考えられるように、対象とするガスの選択性をいかに向上させるか、また、難燃性ガス(化学的に安定な)ガスをいかに検知するかという問題が解決すべき課題として残されている。
 セラミックヘテロ接触とは、異なる物性の半導性セラミックスを機械的に圧着したものであり、凹凸のあるセラミックス表面により微少な空隙がある接触界面を持っている。そこへ水蒸気や各種のガスが侵入すると、接点を通じて流れる電流に変化が生じる。筆者らは、p型半導体のCuOとn型半導体のZnOのヘテロ接触により湿度検知や選択性のあるCOガス検知が可能であることを示してきた。使用する材料の組合せや測定条件(温度、印加電圧)により特異な検知特性が得られることが分かりつつある。
 塩素ガスは工業用原料や消毒用とし様々に使用され、また、火災では含塩素プラスチックから放出される有毒ガスである。塩素イオン導電性固体電解質を用いた起電力検出型センサや、イオン電極を用いたクーロメトリ型センサが提案されているが、簡単な素子構造で優れた検知特性を持つ全固体型センサの開発がさらに望まれている。
 ここでは、SiC/ZnO系のヘテロ接触で調べられた塩素ガス検知特性と考えられる検知機構について紹介する。




第12回化学センサ研究発表会

池田章一郎(名古屋工業大学)
佐藤 生男(神奈川工科大学)

Conference Report. The 12th Chemical Sensor Symposium

Shoichiro IKEDA (Nagoya Inst. of Tech.)
Ikuo SATOH (Kanagawa Inst. of Tech.)


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