Chemical Sensors

Vol. 6, No. 4 (1990)


Abstracts



思い出と期待

石橋 信彦

九州大学工学部教授

A Small Memory and Expectation for Chemical Sensors

Nobuhiko ISHIBASHI

Kyushu University

 昨年9月クリ-ブランドで開催された第3回化学センサ国際会議で、清山先生が化学センサ開発についての功績により国際賞を受けられた、と伺った。科学研究における日本のオリジナリティに対して、国際的認識を増やして戴いたことも含めて誠におめでたいことである。昔語りになって恐縮であるが、清山先生が世界で初めての報告となったガスディテクターの研究を始められたのは、ちょうど筆者が先生の助教授であった昭和36年ごろではなかったかと思う。その少し前から加藤昭夫さん(いまの九大応用化学教授)が大学院ドクター論文研究として触媒の研究をされていた。これに関連して研究室の検討会で、先生が坂井渡先生と、触媒作用は表面反応であるから、触媒を薄膜にしてガスの表面吸着と反応性の関係などを薄膜の電気伝導度測定で検討してみましょうとディスカッションされていたことが記憶に残っている。加藤さんの学位論文の実験はその後この線で進められていたようであるが、この研究の過程で先生はガスの検出への利用を思いつかれたのではないかと推測している。それからどれくらい後のことであったか漠然となってしまったが、当時教務員であった藤石さん(現在、日立化成)に酸化亜鉛の薄膜上を試料の炭化水素かアルコールを含む窒素ガスを流し、試料成分の検出の実験を行うよう命じられた。世界におけるガスディテクターまたはガスセンサ研究の始まりである。小生も同じ研究室にばん居していたので思い出深いが、藤石さんも始めは随分苦労された。半年ほどの間、薄膜の蒸着など改良に改良を重ねられたものである。先生も藤石さんもよく辛抱されたものと思う。そして次第に、そしてついに鋭敏にガス検出ができるようになってきたころの藤石さんの嬉しそうな生き生きとした顔は、いまでもはっきり思い出すほどである。しばらくして、筆者は清山研を離れたので、その後の研究の進捗状況は良く知らないことが多くなった。しかし、時折たずねてみると、幅広い清山研の研究の中で、ガスディテクターの研究は着々と継続発展していた。一方また、ガスセンサの学術的及び社会的意義が次第に認められるようになり、世界的にも研究者の数も鰻登りとなり、ついに1983年第1回の化学センサ国際会議が福岡で盛大に開催されるに至った。その前後からのことは多くの会員の方がよくご存じのことと思う。
 いま、化学センサの研究会は、聞くところによると、会員二百数十名であるが、年に2回の講演会では、毎回40〜50の講演発表があり、会報も毎年4回も発行されているとのことで、会員各位の極めて活発な研究活動と本会事務局の会員へのサービスにたいして敬意を表する次第である。ただ、会の主流が初めガスセンサからであったためであろうか、イオン電極関係がやや少ないようである。イオン電極はガラス電極以来90年の歴史をもっており、代表的化学センサのひとつである。60〜70年代に華々しかったイオン電極の研究もいまでは一段落したようにもみえる。しかし、周期律表を眺めても開発すべきイオンセンサは多い。また、これまでのイオン電極を基礎にし新しいタイプのイオンセンサ(光ファイバー化学センサなど)も生まれつつある。つぎの日本での国際会議にはこの方面の優れた外国人研究者も招待して戴き、そのようなことを契機として、本研究会が文字どおりあらゆる化学センサの研究者を包含した世界的学会に発展することを期待するものである。




ファジィ推論のセンサシステムへの応用

大藪多可志

金沢女子短期大学情報処理学科
〒920-13 金沢市末町10

Fuzzy Reasoning and its Application to Sensor System

Takashi OYABU

Department of Information Engineering, Kanazawa Women's College
Kanazawa-shi, Ishikawa 920-13, Japan

Fuzzy reasoning has been applied to various fields: for one instance, the field of control engineering. Recently, control technique is introduced into domestic circumstances. In this paper, an outline of introducing the method of fuzzy reasoning into the home security system in which control technique is used is described. The system not only can detect three kinds of disasters, namely fire, leakage of combustion gas, and generation of cabon monoxide gas, but also can show the grade of possible disasters using fuzzy reasoning. This method is closer to human inference process than a usual security system.

はじめに
 家電製品を中心にファジィ推論が一般社会に応用されてきている。これは、センサからの信号をマイクロコンピュータやマイクロプロッセサを用いて処理し、各種の制御を行うセンサシステムにファジィ推論を適用したものである。これまでのセンサシステムは、センサからの信号レベルを基にして種々の処理や判断を行ってきた。これらの信号は非常に明確(Crisp)な値を基本としたものである。一方、人間は非常にあいまい(Fuzzy)な情報を基にして優れた情報処理を施している。このため、人間のあいまいな情報処理を研究し、それを真似たりそれに近づけたりする必要もあるものと思われる。
 ここでは人間に近い思考判断を行うために、ファジィ推論をセンサシステムへ応用する手法について述べる。




半導体ガスセンサの食品分析への応用

江頭  誠・清水 康博

長崎大学工学部
〒852 長崎市文教町1-14

Application of Semiconductor Gas Sensors to Food Analysis

Makoto EGASHIRA and Yasuhiro SHIMIZU

Faculty of Engineering, Nagasaki University
1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki 852, Japan

Chemical Sensing of food is important from the standpoints of estimation of nutritive value, quality control, hygienic guarantee, and so on. Present status of the chemical sensing or analysis was briefly reviewed. An approach of fish freshness detection, utilizing semiconductor gas sensors such as 0.5 wt% Ru/TiO2 and 5 mol% MgO/In2O3, was also described with some examples. The sensors detect mainly trimethylamine which is the most important component in odor s from fish during its deterioration.

はじめに
 食品工業においては、発酵工業などの一部を除き、原料から製品までの製造プロセスの完全な自動化が困難な場合が多い。これは、食品が化学的、物理的に複雑な系であるだけではなく、各工程で食品の品質を自動計測するためのセンサ技術が確立されていないことにもよる。自動化のためには各種の高性能センサの開発が不可欠であるが、そのための研究組織(食品産業オンラインセンサー技術研究組合)が、1986年度から5年間の予定で食品および計測機器メーカーを中心に計36社で発足している。具体的なセンサ開発のテーマは、食肉鮮度用、肉類殺菌用、水産加工工程用、乳製品や農産物関連の製造工程用、製品検査や包装容器検査用、食品中の異物検知用など、物理センサから化学センサまで多岐にわたっている。
 食品に対する化学センサのにーずは、図1(略)に示すように食品中の栄養価の評価と食品の品質および安全性評価の2つに大別される。本稿では、この観点からまず化学センサあるいは化学分析の現状について概説する。次に、筆者らが検討を進めている半導体ガスセンサを用いた魚肉鮮度センサの可能性について、実際に魚の鮮度評価試験を行った結果を含めて紹介する。




イオンセンサ

遠田 浩司・菅原 正雄・小田嶋和徳・梅澤 喜夫

北海道大学理学部
〒060 札幌市北区北10条西8丁目

Chemical Sensors 1989-Ion Sensors

Koji TOHDA, Masao SUGAWARA, Kazunori ODASHIMA, Yoshio UMEZAWA

Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University
10 Kita 8 Nishi Kita-ku, Sapporo 060, Japan

 イオンセンサの1989年後半から1990年前半にかけての進歩について、電極表面で起こる化学現象に関する基礎研究、及び電位応答型イオン選択性電極(ISE)、化学修飾電極の開発に関する研究動向を概観する。また、この1、2年の発展が著しい光学検出型イオンセンサについても重点的に紹介する。



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