Chemical Sensors
Vol. 6, No. 2 (1990)
Abstracts
アメニティセンシング
岡村 昌弘
(株)日立製作所日立研究所主管研究長
Amenity Sensing Systems
Masahiro OKAMURA
Hitachi, Ltd.
真夏の炎天下から冷房の効いたオフィスや店に入ると生き返ったような心地がするが、そこにしばらく居ると今度は寒くなってきて肩をすくめて腕をさすったりすることがある。そんな環境で一日中働いている人の中には、冷房で身体の不調を訴える人もあると聞く。また逆に、真冬に汗ばむほどの過剰暖房に悩まされることも多い。暑ければ骨の髄まで冷やす、寒ければのぼせるほど暖めるといった乱暴なやり方ではなく、もっと人間を大切に扱ってくれる冷暖房が出来ないものかと常々思っていたところ、最近アメニティセンシングという言葉をよく耳にするようになった。その目指すところは、生活環境や職場環境の快適さは勿論、種々の機器、装置類の使い易さから衣服の着心地まで計測、評価して「人にやさしい製品」を開発しようというものだそうで、大変結構なことである。
しかし、オフィスの環境ひとつをとっても、その快適さを客観的に計測し、制御するというのは容易なことではないと思われる。まず、環境の快適さに影響する因子の計測であるが、従来から測定されている温度、湿度以外にもっと多数のパラメータがあると思われる。例えば同じ気温、湿度でも輻射や風の強さで体感温度は違ってくる。また、空気中の酸素、二酸化炭素の濃度は勿論、一酸化炭素、その他の種々の微量のガス、イオン濃度或いは浮遊ダスト量なども快、不快に影響するであろう。きめこまかな環境制御には、これら影響因子の究明とその高感度の計測が不可欠である。
ところで或る環境について種々の因子の計測ができたとしても、もうひとつの大きい問題は、その環境にいる人間がそこでどう感じているかを客観的に計測、評価することである。人間の快、不快などの感覚は主観的なものであり、客観的、定量的に扱うことは困難と見られてこれまで殆ど手が着いていなかった。しかし、快適環境を「製品化」するためには、どうしても人間感覚を客観化、定量化して、標準を作らなければならない。具体的には不快、緊張、焦燥、疲労などの感覚を生理的なパラメータとして捉えるわけであるが、このために一定の環境に置かれた被検者の体温、脈拍、血圧は勿論、皮膚の発汗、筋肉の緊張度、血中の酸素濃度等々、種々の整理パラメータの測定が必要である。しかもその計測は、被検者に苦痛或いは悪影響を与えずに実施できるものでなければならない。このように快適な人工環境の実現には多種多様なセンサが必要であり、新しく開発しなければならないものも多いと思われる。より豊かな社会の実現を目指して「人にやさしい技術」が望まれる時代を迎えて、このようなアメニティセンシング技術は今後ますます重要になってくるであろう。中でも、人間の微妙な感覚に影響する因子の計測は、化学センサやバイオセンサに依存するところが大きいのではなかろうか。本研究会のますますの発展を期待したい。
生物組織機能を利用する生体成分計測法
内山 俊一
埼玉工業大学工学部
Bioanalytical Methods Using Functions of Plant and Analitical Tissues
Shunichi UCHIYAMA
Department of Environmental Engineering, Saitama Institute of Technology
Plant and animal tissues have been found to be effective catalytic materials in biosensors. The usable configurations of these tissues for bioanalytical method can be classified into tissue juice, tissue slice, minced tissue, mixed tissue with carbon paste and acetone powder containing tissue. The method for fabrication of available tissues and recent works on tissue sensors are summarized, and novel methods using tissues such as flow injection method for vitamin C using tissue juice carrier and modifications of the electrode surface with tissue material are described.
まえがき
生物組織は天然の豊富な酵素源であり、各生物はそれぞれ固有の酵素分布を有することが知られている。現在のところ生物由来以外に天然酵素を得る方法はまだなく、バイオセンサ、特に酵素センサは生物に生産させるかあるいは組織から抽出して精製した酵素を用いて作製されている。そしてこの精製酵素を人工的な薄膜あるいは樹脂などの担体に固定化したものが生物化学計測システムの物質識別部位に使用されている。
ところで酵素は生物の組織のなかに含まれているので組織自体が天然の固定化酵素であると考えることができる。そして組織は酵素活性の発現と維持に理想的な環境を提供しているものと思われる。そこで生物組織の薄膜を人工的な固定化酵素源として捉えると言う発想に基づいて酵素センサが作られたのは理にかなったものと言える。
組織を用いた初期のセンサの開発は主にハワイ大学のRechnitz教授のグループで進められ、優れた総説[1,2]が書かれている。また筆者もすでに1988年以前の研究について総説[3-7]にまとめたがこれらは主としてセンサを測定する基質あるいは用いた動植物の種類で分類してまとめられたものである。本稿は1988年以降の新しい研究も含めて生物組織の利用の方法また組織の形態による分類を行い、これまでの主なセンサについて組織の計測化学における物質識別素子としての占める位置及びその作製上の留意点について筆者らの研究を中心にまとめることにする。
ガスセンサI -可燃性ガスセンサ-
玉置 純
九州大学総合理工学研究科
Chemical Sensors 1989 -Gas Sensor I. Combustible Gas Sensor
Jun TAMAKI
Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu University
はじめに
本稿では、昨年発表された可燃性ガスセンサに関する論文を1)都市ガス・LPガス、2)水素、3)一酸化炭素、4)アルコール、5)新しい測定方式に分類し、それらの概略を紹介する。1)では都市ガス・LPに関する論文以外にも、ガス検知機構や可燃性ガス全般に対する検知特性を報告した論文についても紹介する。また、5)では複数のセンサ素子を用いたパターン認識や温度サイクルによる導電率曲線の解析から混合ガス系の組成や濃度を測定する新しい方法について報告する。
昨年は、Chemical Sensor Technologyシリーズの第2巻が発行され、Pd-MOSFET[1]、Pd-MS, MIS, MIMダイオード[2]、半導体マイクロガスセンサ[3]、SnO2系ガスセンサの安定性[4]に関して詳しい解説が掲載されている。その他にも可燃性ガスセンサに関する総説、解説が報告されているので参照されたい[5,6]。特に、Kohlの報告[6]では、SnO2の単結晶、蒸着膜、スパッタ膜、焼結体表面におけるH2、H2O、AsH3、CO、CH4、CH3COOH、C2H5OHの各ガスの吸着や酸化反応素過程および伝導率への影響について詳しくまとめられており、大いに参考になると思われる。
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