Chemical Sensors

Vol. 5, No. 3 (1989)


Abstracts



化学センサ技術を地球環境問題解決に役立てよう

小山内 裕

藤倉電線(株)基盤材料研究所・所長

 最近、グローバルな規模でキー・ワードとなってきている地球環境問題は、従来のように、単に一地域の環境の問題として止めることが出来なくなってきて、国際間の協調体制を築きながら解決を図らなければならない問題となってきています。特に問題となっているフロンガスや炭酸ガスによる環境破壊は、人類社会、特に先進諸国が、エネルギー需要を含めたいろいろな面で、化学反応を基にして、人類の幸福に役立てようとしてきたプロセスにおける廃棄物と余剰物が悪役となって、もたらされている現象と言えます。従来考えてきた広い無限に近い地球という観点では、環境保全の問題を量ることは出来ず、非常に繊細なガラスのような地球であるという認識が必要となっています。例えば、大気圏を取り囲むオゾン層の厚さは地表の気圧下では僅か3 mmしかないことからも、窺い知れます。さらに、酸性雨によるpHの変化が森林破壊の原因となり、この問題にも多くの関心が寄せられています。前号の巻頭言において、山内会長が“21世紀の化学センサのために”と題して、非常に示唆に富む提言をされておりましたが、我々が化学反応を応用して築き上げてきた現代社会から惹起された環境問題の解決のため、すなわち、来るべき21世紀の環境保全のために、化学センサが果たすべき役割は非常に大きいものがあると考えられます。
 現在、一番問題となっている地球の温暖化をもたらす温室効果をもたらす気体は、炭酸ガスだけでなく、水田や家畜の排泄物などから発生するメタンガス、紫外線からの保護をしてくれるオゾン、そのオゾン層を破壊するフロンガスなどが挙げられています。一分子当たりの温室効果の大きさは炭酸ガスを一とするとメタンガスは十、酸化窒素が百、オゾンが千、フロンにいたっては一万となると言われております。これらのガスによる環境破壊を極力抑えるためには、省エネルギーの推進、排出ガスの制御システムの開発および排出ガスの固定化技術の開発等が考えられています。省エネルギーのためには、化石燃料の燃焼効率改善のために酸素センサの積極的利用、太陽エネルギーの利用のためには温度センサや湿度センサの活用等が考えられます。これらのセンサは、いずれも、化学センサが主流でありますが、これらの用途により適合した化学センサの開発が待たれます。そのために、小型で、選択性が高く、精度が十分あり、使用環境条件に影響されず、信頼性があるという難しいセンサの開発が要求されていますが、これらのガスの検知、制御および除去のためには、まずセンサの存在が必要条件となってくるからであります。排出ガスの制御システムの構築とその固定化のためには、さらに、pH測定用ならびに酸化窒素やフロンガス等に対する化学センサも必要になってくるものと思われます。
 この様な見地からも、会員の皆様とともに国際的な立場にたって日本の科学技術の一つとして化学センサを地球環境破壊の問題解決のために役立てていきたいものだと思っております。




バイオセンサII
―特に埋め込み型センサについて―

池田章一郎

名古屋工業大学工学部

 バイオセンサには、大きく分けて発酵工業用と医療用とがあるが、ここでは医療用、特に人工臓器などの用途に向けて開発が進められている、埋め込み型バイオセンサの1988年の研究動向についてまとめる。




湿度センサ

定岡 芳彦

愛媛大学工学部工業化学科

はじめに
 湿度センサの1988〜1989年前半における論文を、1)高分子湿度センサ、2)セラミックス湿度センサ、および 3)その他に分類し、その内容を概説する。




モノクローナル抗体を用いた酵素免疫測定法
―免疫化学センサへの今後の展開―

宇田 泰三

宇部興産(株)宇部研究所

はじめに
 基質と触媒が鍵と鍵穴の関係にある特異的な反応は以前より研究されてきた。例えば、泉ら[1]によるカルボニルの立体特異的な水素化反応は、触媒がニッケル金属のような無機物質である点、非常にユニークである。この場合には、金属表面に有機化合物を配位させることにより基質に対する鍵穴を実現している。また、古くは酵素反応がそうである。酵素の基質反応部位はある基質に対してのみ非常に強い親和性を有し、酵素特有の高い反応特異性を実現しているのである。今回解説するモノクローナル抗体は、反応を触媒することはないが、あるひとつの化合物に対する化学親和性は酵素よりもはるかに高く、また、古くからあるポリクローナル抗体よりも当然反応特異性は高い。抗原との反応は抗原抗体反応いわゆる免疫反応といわれるが、この反応は抗体の特徴である高い分子認識能が大いに発揮される鍵と鍵穴の反応である。こうした特異性の高い免疫反応を用いて被検物質を検出する方法として、酵素免疫測定法が一般化されてきている。
 モノクローナル抗体は、バイオテクノロジーのひとつである細胞融合法[2]により作製されるタンパク質であり、酵素免疫測定でよく利用されるのは分子量約18万のマウスのγ-グロブリン(IgG)である。モノクローナルはmonoとcloneから成る語であり、ひとつの細胞株が産正する単一のものをいう。従って、以前より使用されてきたポリクローナル抗体に比べ、特異性、品質の均一性などの面で優れている。
 酵素と抗体(モノクローナルおよびポリクローナル)との決定的な違いは、酵素の場合、天然に存在するものしか利用できないのに対し、抗体の場合は自分が希望するものを意識的に作製できることである。従って、センサの作製に当たっては、酵素よりも抗体を使用する方が当然広い分野をカバーできる。検出したい化合物に対する抗体を取得すれば、高い分子認識能を持つセンサが作製可能になる訳である。
 この項では、筆者らの作製したモノクローナル抗体を酵素免疫測定に応用した例をいくつか紹介するとともに、モノクローナル抗体が今後どのように化学センサシステムへ展開できるのか、その可能性について現状を踏まえながら考えてみたい。




学会レポート
第5回固体センサおよびアクチュエータ国際会議(Transducers'89)

(1989年6月25〜30日 於 スイス Montreux カジノ会議センター)

江頭  誠・五百蔵弘典・脇田 慎一・江刺 正喜・佐藤 生男・勝部 昭明



研究所訪問記
Institute of Physical and Theoretical Chemistry University of Tubingen

定岡 芳彦


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