Chemical Sensors
Vol. 5, No. 2 (1989)
Abstracts
ファジーセンサのすすめ
高橋 清
東京工業大学工学部教授
「センサは、人間の五官に対応する」と言う言葉は、余りにも陳腐化している。センサと人間の五官との、本質的な相違点は、「知恵があるか無いか」であろう。雑踏の中で自分の名前が呼ばれるとすぐ判るし、あるいは、活字の中に、自分の名前があると、そこだけ瞬間にして読みとることが出来る。これらは、耳で聞いたり、目で見たりしているのではなく、頭で聞いたり、頭で見たりしている証拠である。
また、センサは単機能であるが、人間の五官は、多機能である。一瞬の内に色々なことをセンシングすることが出来る。例えば、50 cm幅の板が床の上におかれている場合、我々はその上を簡単に歩くことが出来る。しかし同じ板が千尋の谷の上に架けられている場合には、その上を歩く事は出来ない。「落ちたら困る」ということまでセンシングしてしまうからである。ロボットでは、両方とも全く同じように歩くことが出来よう。ロボットには、知能、いや知恵が無いからである。
翻っていま開発されている物理センサをみると、とても人間が及ばないことをやってのけている。磁気センサ、超音波センサもさる事ながら、遠く宇宙の彼方から発せられている信号もセンシングすることができ、さらには人間の体を輪切りにしたと同じ状態で、内部をセンシングすることが出来る。それらのセンシングの精度においては、想像を絶するものがある。このような物理センサの高精度は、ディジタル処理によってもたらされている。
一方化学センサを見ると、味はともかくとして、臭い、ガスなども満足にセンシングすることはできない(失礼)。
ここで言いたいのは、「化学センサが立ちおくれている」ということではなく、「化学センサは、センシングしなければならないものが、きわめて複雑であり、一度に複数のものを(例えば分子の種類など)一瞬の内にセンシングしなければならない」ためである。換言すると、物理センサは「きわめて単純である」が、化学センサは、「複雑で、人間の五官に、より近く、アナログ的」である。
アナログ的と言うことは、精度は少々悪くても、一瞬の内に色々な情報量をセンシングすることが出来る特徴がある。従って若干の「曖昧さ」は残るが、精度には勝る素晴らしさがある。人間の五官も精度においては余り信用出来ず、「曖昧さ」がある。
この「曖昧さ」は、何に起因してるのであろうか。それは「知能、いや知恵」のよると考えたい。すなわち「曖昧さ」、あるいは、今流行の言葉で言うと「ファジー」こそ「知恵(知能ではない)」の特徴である。その意味からして、これからのセンサは「インテリジェントセンサ」ではなく「ファジーセンサ」ではなかろうか。化学センサは、ファジーセンサに、より近いところに位置している。
バイオセンサ
水谷 文雄
繊維高分子材料研究所
はじめに
1988年もバイオセンサに関する研究発表が活発に行われた年であった。関連学会、シンポジウムが国内外で催され、そして、多数の論文が誌上を賑わした。電気化学「バイオサイエンスと応用」論文特集号にもセンサを対象とする論文が多く寄せられた。
以下では、1988年に発表された論文をもとに、バイオセンサ研究の動向について紹介したい。
植物におけるバイオセンシング
松岡 英明
東京農工大学工学部
第8回化学センサ研究発表会
(1989年4月7〜8日 於 横浜国立大学工学部)
碇山 義人(東京工業大学)
五百蔵弘典(フィガロリサーチ(株))
本会主催で、4月7日と8日の両日、横浜国立大学工学部において開催された。発表件数は特別講演2件、一般講演33件であり、両日とも活発な討議が行われた。ここでは、講演番号17までの主としてバイオセンサ関連の発表と、講演番号18以後の主にガスセンサ関連の発表とに分けて、内容を紹介する。
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