Chemical Sensors

Vol. 4, No. 1 (1988)


Abstracts



化学センサの選択性と自己再生について

山本 達夫

静岡大学電子工学研究所・教授

【選択性について】
 4、5年前外国人留学生の工場見学にお伴して香料会社を訪れたことがある。その時工場長より面白い話を伺った。化粧品会社では調香師なる人が居て、色々な香料を調合して香水を作るのだそうである。女性をより魅力的にする香水には、強い悪臭成分を少し加えるのがその香しさを倍増させるポイントであると言う。そして、この道のベテランになるには多くの匂い成分を嗅ぎ分けるハードトレーニングを必要とし、そのため鼻が腫れ上がることもあると言うことである。考えて見れば、人間様の臭覚は犬などと比べれば、その感度と匂いの選択性については桁違いに劣っているように思われる。味覚についても然りである。これは多分長い間他の生物と比較して道具を使いこなして来た人間の感覚器の退化によることも確かであろう。香りと味によって酒の品質を鑑定する「利き酒」もやはり訓練された特定の人達によって行われるものであり、また音楽を奏でる楽器例えばピアノもまた調律師なる専門職によって音階が整えられるのである。従って、普通の人間或いは何々音痴と呼ばれる人々には所詮無縁な話である。このように人間様の持つ化学センサは必ずしも良い選択性と感度を持っているわけではないようである。一方人工の化学センサについて見れば、最近数種類のセラミックガスセンサを集積化したチップとメモリ素子とマイクロプロセッサを組み合わせた所謂インテリジェント・センサが開発された。この匂いセンサは60種類の匂い物質を判別できるとされており、いずれは人間様の鼻より遙かに感度が高く選択性の良い匂いセンサが市販されるのも夢ではなくなりつつあるように思われる。

【自己再生について】
人間の鼻や舌に存在する感覚細胞は絶えず新陳代謝されるため、通常は特別の身体的障害が無い限りほぼ一生の間その感度を保ち役割を果たしていると考えられる。然しながら、物理センサに相当する耳や目は健康な人でも徐々に感度が低下する場合が多いようである。そして不思議と匂いや味に対する感度低下は寡聞にして聞かないのである。これは感度が低下しても気にならない程鈍感な器官なのか或いはさして重要でない器官のためなのか専門家に伺いたい所でもある。その昔学生の頃、真空管工学の授業で真空管の陰極材料であるトリウム・タングステン(Th-W)の話を聞いたことがある。これはタンブステンに酸化トリウムを含浸させたもので、ある適当な温度で動作させるとトリウム原子がバルク内部より表面に絶えず補給されてThの表面単原子層が効率の良い電子のエミッタとして長期間その特性が維持されると言うことであった。また、電気抵抗式セラミック湿度センサでは、一定感度を持続させるために感湿面の加熱クリーニングによる清浄化が行われている。化学センサが超小型化、集積化を指向するとすれば、必然的に感知膜ないし感知固体表面を応用するのが近道であろう。この場合、固体―気体、固体―液体等3相の界面での相互作用が問題になり検知界面は絶えず新鮮な清浄面であることが要求される。人間を含めた生物系では前述のように感覚細胞の新陳代謝により一定感度が保たれているが、人工の化学センサでもこのような自己再生(Self-healing)ないし自己修復作用を持たせたセンサがいずれの日にか出現することを期待したいものである。




ガスセンサ I -可燃性ガスセンサ-

清水 康博

長崎大学工学部

はじめに
 本稿では、昨年発表された可燃性ガスセンサに関する論文を1)都市ガス・LPガス、2)水素、3)一酸化炭素、4)その他のガスに分類し、それらの概略を紹介する。なお、1つのセンサ材料でメタン、水素、一酸化炭素など多くの被検ガスに対する感ガス特性を検討している論文は1)で紹介し、特に水素および一酸化炭素に対するガス選択性の向上を目的とした論文については、それぞれ2)、3)で紹介する。
 昨年発表された論文では、センサ材料の感ガス特性を触媒化学的観点から議論した例が多い点が注目される。特に、可燃性ガスセンサでは、選択性の向上が常に問題になる。Morrisonは選択性を向上させるために添加される触媒や添加剤(promoter)の役割について、触媒反応における触媒の役割と対比させながらわかりやすく解説している[1]。また、添加された触媒が化学的増感作用のほかに電子的増感作用によりガス感度を向上させるためには、触媒粒子間が500Å以下となるように高分散される必要があると述べている。




バイオセンサ I

相澤 益男

東京工業大学工学部

はじめに
 1987年もバイオセンサ研究の活発な年であった。数多くの国際会議が行われ、これらのプロシーディングスや関連の出版物が次々と表れた。また研究論文も増加の一途をたどり、種々の単行本も出版され、研究状況を反映していた。
 国際会議の開催とそのプロシーディングス発刊はづれることが多い。ここではプロシーディングスの発刊をフォローしてみる。
 英国Royal Society主催のバイオセンサシンポジウムがPhilosophical Transaction of Royal Society, London[1]にまとめられた。バイオセンサ研究の現状と横断的にとらえているので、タイトル全部を引用して掲載する。
 西独生物工学研究所(GBF)主催のバイオセンサワークショップのプロシーディングは[2]、世界各国からバイオセンサ研究者を一堂に集めた多彩な研究結果となった。このプロシーディングの内容も、バイオセンサ研究の状況をうかがい知るのに格好の情報である。全項目を一括して載せる。
 以上の他、数多くの著者、総説が出版された。全部を記載することは無理なので、主なものだけをまとめておく。



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