Chemical Sensors

Vol. 2, No. 3 (1986)


Abstracts



センサと吾人生

五十嵐伊勢美

(株)豊田中央研究所 取締役

【センサへの道を決めた切っ掛け】
 いまから約30年前、あと数年で20代を終わろうとしていた昭和30年頃の話である。当時の半導体(主としてGe, Si)研究はなにをやっても新しい現象のように思われ、学会発表の“ネタ”は尽きることがなかった。その中には怪しいのも含まれていたが、偶然みつかった貴重な現象や目標以外の意外な効果に遭遇して驚くことも少なくなかった。半導体ひずみゲージもこの頃の発明であり(特許出願昭和31年11月12日)、実験中の偶然の出来事が切っ掛けであった。幸か不幸かその時点から私の人生の方向は定まり、あっという間に30年以上を過ごし、今日なお“センサ”の中に生き続けている。

【月給より高いトランジスタ】
 昭和30年頃のトランジスタの多くはGe素材からできていた。長さ3 mm、幅2 mm、厚さ約0.1 mmのn型Ge基板の両面の中央部にゴマ粒大のInを拡散して、それぞれエミッタ、コレクタを形成していた。ベース電極はNi板のハンダ付けである。このとき、トランジスタ作用の応力効果が問題になっていた。そこで、pn接合部の弾性変形時の電気的特性を検討する必要があった。GeやSiは極めてブリットルであり、応力集中によってすぐ破壊してしまう。破壊寸前までの大応力を加えるためエミッタ部分のInを削り取り、それをI字形の薄板ステンレス試片の中央部にアラルダイトで貼り付けた。薄板試片の両端をつかみ、単軸引張り装置によって、ひずみΔL/L=1000×10-6まで破壊せず測定できるようになった。実験も峠を越したある日、試片の取り付けの際過って大きな曲げ力を加えてしまった。私の月給(大学助手)が約8千円のとき、このトランジスタは約1万円の価であり、年間数万円の研究費から購入したものである。目の色が変わったのは無理からぬことである。そのとき偶然にもGeの両極にテスターが接続されていた。針は数mm動いて、元の位置に戻った。結晶は破壊したと思い、一瞬茫然とした。破壊を確かめる意味で、おそるおそるステンレス板を曲げてみた。メータの針は動いた。逆に曲げると針の振れは反対方向に動いた。破壊から逃れた安堵感と同時に、ひずみケージへの応用が頭に浮かんだ。それからは一直線の人生であった。
 “針の振れ”と“ひずみゲージ”との連想には次のような背景があった。この実験を始める数年前、故湯浅亀一先生(材料力学)のご指導で光弾性材料のひずみ計測を実施していた。そのとき手作りの金属抵抗線ひずみ計を使用していた。感度が低いので増幅器を必要とした。配線図を見ながら作った真空管式の直流増幅器は、不安定でとても微小抵抗変化を検出できるものではなかった。電子部品は全て米軍の払い下げ機器を分解して再利用したもので、そのときの増幅器作りの苦労は未だに忘れることはできない。そのときから、増幅器の要らないゲージを頭のどこかで求めていたに違いない。いまにして思うと、手に汗した苦労は思わぬ所で生きるものだと、諸先輩の教訓を体験したような気がする。これらの仕事を引き下げて、(財)豊田理化学研究所に入ったのは昭和32年であった。

【センサ開発は努力と忍耐の一粒の感】
 今年の夏、約3週間、中国側の招待で「日中電子敏感技術科学討論会」(団長 高橋 清教授)に出席した。4日間の討論会の前後に大学や研究所を多く訪問し、講演や見学を行った。著名な大学、研究所の実施には、30年前に筆者らが使った検流計、ダイヤル可変抵抗器、スライダック、ホイットストン電橋等が使われており大へん懐かしかった。電子敏感技術研究所では今年からSiひずみゲージの試作を開始したとのことであった。数10年前を思い出しながら懇談に花を咲かせ、若手研究者の集まりには必ず「センサ開発に必要なのは努力と忍耐とそして一粒の感である」と云って別れた。この一粒の感は自ら手に汗して磨き上げる以外にないことも付け加えた。数10年後の日中敏感器分野の進展の状態を確かめてから人生を終わりたいものである。




バイオセンサ U

軽部 征夫

東京工業大学資源化学研究所

はじめに
 臨床検査技術の1つとして始まったバイオセンサの研究も、今では、バイオテクノロジーの一分野であるバイオエレクトロニクスの中心的存在として広く知られるようになった[1, 2]。研究者の数も飛躍的に増えてきたし、企業レベルで取り組んでいる所も多くなった。しかしそのような華やかな側面の一方で、新たなる展開を模索して研究者たちが悩んでいることもまた事実であろう。今後の展開を大きく左右するような研究は残念ながらまだ見られない。本稿では、1985年後半以降の研究について、本誌Vol. 2, No. 1で取り上げられなかったものを中心にまとめた。




LB膜バイオセンサ

森泉 豊栄・尾上 洋一

東京工業大学理工学国際交流センター

 LB技術を用いれば化学センサの機能向上が期待できる。吸着サイトが表面・界面に密に配列し感度が高い、超薄膜のため対象分子の吸着、脱着が速い、などセンサの高性能化が期待できる。
 筆者らは、LB成膜技術を固体基板上への酵素固定化に応用し、それをもとにバイオセンサを作製した。具体的には、P. Fromherzによる円形多室構造のLB水槽を用いた[1-3]。この技術についてはあまりなじみがないと思われるので、まず初めにその概要を述べ、次に実際の応用例として、過酸化水素電極を用いたバイオセンサについて解説を加える。




第2回化学センサ国際会議プログラム

(1986年7月7〜10日 於 ボルドー)

山添  昇・清水 康博・荒川  剛・定岡 芳彦・中村 通宏・飯田 武場・水谷 文雄


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