Chemical Sensors

Vol. 2, No. 2 (1986)


Abstracts



化学センサの夢

片岡 照榮

シャープ株式会社技術本部副本部長

 最近、外部の情報をとらえるセンサの研究開発が盛んになった。マイクロコンピュータ等、情報処理装置の目覚ましい普及発達の結果である。センサからの電気信号は、当然情報処理されなければならない。このごろは、各種のセンサがシリコン半導体で作られるようになって来ているので、センサと信号処理系を一体化に集積する集積化センサの技術が注目されている。
 エレクトロニクスは、生体をお手本として発展して来た。コンピュータは、人間の頭脳を機械で実現しようとするものである。それに対して、センサは人間の感覚器に相当する。生体の感覚をよく調べてみると、実はセンサだけではなくて、その信号を処理する部分も一体となったセンサシステムであることに気が付く。所謂、集積化センサのお手本である。
 このような立場から、人間の網膜の機能に相当したセンサを実現しようと、三次元集積回路を用いたインテリジェントイメージセンサの研究開発が、通産省のプロジェクトとして進められている。
 さて、各種のセンサがあるが、半導体センサで最も進んでいるのは、目の働きをする光センサである。耳の働きをする音のセンサもマイクロフォンとして非常に進んでいる。皮膚の働きをする圧力センサや温度センサもかなり進んでいる。しかし、人間の感覚器に比べて、最も遅れている分野が、鼻の働きをする嗅覚センサと舌の働きをする味覚センサである。これらは、いづれも化学センサであり、成分センサである。
 このような意味で、今後のエレクトロニクスが化学センサに期待するところは非常に大きい。
 現在では、いくつかのガスセンサやイオンセンサ等があるが、その精度、信頼性、その他の性能においては、他の物理センサと格段のひらきがある。このような分野のセンサ、つまり化学センサを本格的に研究開発することが、エレクトロニクスを完成させることにつながるのではないだろうか。
 人間の味覚にしても、嗅覚にしても、実は光や音と同じく多くのスペクトルを持った情報の認識である。決して一つの味細胞や嗅細胞の働きではない。その意味で、選択性を持った化学センサのアレイと、その出力を処理する手段とを合わせ持った集積化センサでなければ、味覚や嗅覚の働きは出来ないであろう。その意味で真の化学センサには、情報処理手段をも持たせることが必要である。
 現在進められている三次元集積回路の技術も、その表面にスペクトル的に選択性を持った化学センサを配置することによって、人間の舌や鼻に相当する働きが出て来そうである。所謂、インテリジェント化学センサであろうか。このようなセンサを備えたロボットは、正にインテリジェントロボットということが出来よう。ロボットが、料理の味見をする時代もそう遠い未来ではないかもしれない。




湿度センサ

荒井 弘通(九州大学総合理工学研究科)
清水 康博(長崎大学工学部)

はじめに
 湿度制御は電子産業から農業に至るまでの広い産業分野の他に、病院、家庭などでもその必要性が認識され、湿度制御システムの検出デバイスとして益々その重要性を増している。これまでの湿度センサの研究開発は、高温多湿な我が国おいて特に盛んに行われてきた。しかし、1985年フィラデルフィアで開催されたTransducers '85国際会議では、欧米諸国でも研究開発が活発になってきたことがわかる。湿度センサ材料として、有機高分子膜、多孔質セラミックスなど種々の材料が使われているので、ここでは湿度センサの材料別に1985年の研究開発動向を紹介する。




イオンセンサ

梅澤 喜夫・菅原 正雄・片岡 正光

北海道大学理学部

 イオンセンサの1985、1986年の進歩について、固体膜イオン選択性電極(ISE)、液膜型ISE、それにいわゆる化学修飾電極などの項目について、各々の研究動向を概観する。




自励発振膜型化学センサ

吉川 研一

徳島大学教養部

はじめに
 生体の化学センサーともいえる味覚・嗅覚では、細胞膜を介して、化学的情報を神経の電気的インパルスに変換している。この電気的インパルスが中枢に電播し、中枢での情報処理を通じて、生体は化学的情報を認知している。すなわち、生体はアナログ的な電気信号ではなく、デジタル的な膜電位のパルスにより、化学物質をセンシングしているわけである(図1(略)参照)。一方、従来からの化学センサーでは、化学的情報は、感応部(膜)で直流電圧(或いは直流電流)に変換されている。このため、原理的に、一個のセンサーでは単一の物質を検出・定量できるだけであり、共存物は常に妨害物となる。H+や各種無機イオンに関しては、単一のイオンにだけ感応するすぐれた化学センサーが開発され、実用化されている。有機物質についても、酵素などを用いることにより、各種センサーが作られてきている。しかしながら、何百万にも及ぶ有機化合物の各々について選択的なセンサーを作ることは、極めて困難であることも事実である。そこで、味覚・嗅覚に学ぶ立場からみると膜の興奮や発振現象の応用が考えられる。発振の場合には、振幅・振動数・振動の変調度・波形と、信号の中に含まれる情報量も多くなる。そこで、他種類の有機物質・生体物質を同時に検出・定量できる可能性がでてくる。本稿では、発振現象を利用した化学センシングの試みについて紹介したい。




「電気化学バイオセンサ」に関する日米セミナ

(1986年5月19〜22日 於 ハワイ 東西センター)

相澤 益男

東京工業大学工学部


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