Chemical Sensors
Vol. 2, No. 1 (1986)
Abstracts
in vitro と in vivo
伊藤 要
名古屋工業大学教授
「血液中のブドウ糖の濃度を簡単に、自動的に測定できるようなものはないでせうか?若し、そういうものがあればポンプと組み合わせて人工膵臓ができるのですが。」と相談を受けたのは、今から16〜7年前のことで、近藤先生も私もまだ助教授時代のことであった。それから1〜2年位は為す術もなく手を拱いていたのですが、UpdikeとHicksのグルコースセンサーの発表があり、これなら電気化学屋の私にもできそうだからやって見ませうと云うことで医学部との共同研究が始まった。その後、近藤先生は名古屋大学医学部第2外科の教授になられ、私も名古屋工業大学の教授になることができ、また両者のキャンパスが道一つ隔てた隣り合わせと云う地の利もあって、この共同研究は十数年後の今日まで続いている。その間、私どもの研究室で植え込み型の人工膵臓を目指したグルコースセンサーの開発、試作を繰り返してきた。試作した私どものところで生理食塩水中でのテスト、すなわちin vitroでのテストを充分に行い、それを医学部に持ち込み、動物の生体内に植え込んでの実験、すなわちin vivoでのテストを行うというやり方で共同研究を進めて来た。in vitroではかなりすぐれた性能を示し、人工膵臓用のグルコースセンサーとして使用できそうなセンサーであっても、医学部でin vivo テストを行うと全く働かなかったり、働いたにしても性能が非常に悪くなるようなことがしばしばであった。例えば生体燃料電池型のグルコースセンサーでは、in vitroでは約500 mg/dlのグルコース濃度まで測定でき、人工膵臓用に使用できそうであったが、in vivoでは出力が低下し、全く働かなくなった。また、次に開発した酵素電極式の血液直接測定型管状グルコースセンサーはグルコース透過制限膜を持ち、血液中のグルコース濃度を約700 mg/dlまで直接測定できるように工夫したもので、in vitroでの性能は非常にすぐれたものであり、in vivoでもかなり作動しうるもので耐糖テストも行うことができた。しかしながら、in vivoテストではこのセンサーが人工血管型であったため、時に血栓を生じ、実験を中断せざるを得なくなったこともしばしばであった。血栓防止剤のヘパリンを添加しつつ行うと、かなり血栓の生成を防ぐこともできたが、完全ではなく、それでも血栓のできることもあった。抗血栓性材料もかなり開発されて居り、このセンサーに使用できそうなものもいくつかテストしたが、このセンサーをin vivoで使用できるような満足な結果は現在のところ得られていない。
それで現在では、皮下測定型グルコースセンサーの開発、試作を行っている。このセンサーのグルコースセンサーとしての原理は血管型と同じであるが、構造的には逆である。その構造は直接血液と接触せず、皮下の体液と接触するようになっているので血栓の問題はなくなり、植え込み型のグルコースセンサーとしてより実用化しやすい型のもので、鋭意その開発に努力しているところである。しかしながら、この場合にもin vivoでの問題がいくつかある。例えば、皮下体液中の溶存酸素濃度は血中に比べてずっと低く、その酸素分圧は5%程度であり、そこで高いグルコース濃度まで直線的に応答するセンサーをつくるためには、かなりの技術を必要とする。また、長期間の植え込み使用を可能にする為には、フィブリンなどの付着物の生成の防止、37℃での連続使用寿命の延長等解決しなければならない問題が山ほどある。本当にin vivoは複雑であり、私共のような素人は勿論であるが、医学部の先生方の玄人にも予測できない程の複雑をもったもののようである。
人工心臓を初めとする人工臓器の研究開発は今日では世界各国で盛んに行われるようになり、人工腎臓(人工透析)、人工膵臓、人工心臓など実用化されているもの、また実用化の近いものなどがいくつかある。それらのうちでバイオセンサーを持ち、自動制御機構を備えた、いわゆるClosed loop式の人工臓器は、現在のところ人工膵臓のみである。人工腎臓にしても、人工心臓にしても現在のところ、制御を目的としたバイオセンサーを持たない。いわゆるOpen loop式である。しかし、これらの人工臓器の研究開発は今後益々進展し、その方向は、完全植え込み型でClosed loop式のものと云うことになるであろう。そこで必要とされるのは、それぞれの人工臓器を制御するための広い意味でのバイオセンサーであり、in vivoでも充分に作動し、in vivoでの寿命も充分に長い、生体適合性バイオセンサーであろう。
バイオセンサーの開発に携わる一研究者としてin vivoと云うラテン語の重みをつくづくと感ずる今日この頃である。
バイオセンサ I
相澤 益男
東京工業大学工学部
はじめに
1983年から1985年前半にわたり、急速に展開されたバイオセンサの研究状況は、本誌Vol. 1, No.1およびNo. 4にまとめられている。バイオとエレクトロニクスとの積極的な融合が促進され、バイオセンサの研究はすでに新しいステージに入った[1-4]。バイオエレクトロニクスセンサの時代ともいえる。しかし、エレクトロニクスとの融合を必ずしも意図することなく進められているバイオセンサ研究も、益々活発化している。本稿では、1985年後半のこれらの研究を中心にまとめた。
ガスセンサ I -可燃性ガスセンサ-
江頭 誠(長崎大学工学部)
寺岡 靖剛(九州大学総合理工学研究科)
はじめに
ガスセンサについては、昨年も数多くの研究報告が出されたが、ここでは可燃性ガスを対象とするセンサについて概略を紹介する。一般に可燃性ガスセンサは、他種類のガス成分に応答し、またテストされているので、分類法が難しいが、「化学センサ1984、ガスセンサI(化学センサニュース、1,27 (1985))」に準拠して、便宜上 1)都市ガス・LPガス、2)H2、3)CO、4)アルコール、5)光ファイバセンサ、6)多機能センサ・インテリジェントセンサに分けて紹介する。
ガスセンサに関する最近の関心の高まりを反映して、関連分野はもちろん他の分野の人にも分かりやすく総括的に解説したものや、系統的に分類、比較した著書、総説類も多く出された。いくつか[1-6]を挙げておくので参照されたい。また、昨年6月のPhiladelphiaでの国際会議の内容については、解説記事[7,8]をご覧いただければ幸いである。
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