Chemical Sensors

Vol. 1, No. 4 (1987)


Abstracts



無念無想

鈴木 周一

埼玉工業大学教授・東京工業大学名誉教授

1. 雑学の効用
 最近の科学技術の速度は目覚ましいものがある。2年前に新しいとされた情報および結果がしばしば旧聞となり、陳腐化してしまうこともある。このような進展速度の早い時代に対応して研究を進めてゆくのは仲々大変なことである。各自の指向している専門分野に加えて周辺技術も共に進行してゆくので、これらの新しい技術、方法をとり入れるのにしばしば抵抗を感ずることもある。このような情勢において、若い時に種々の分野における研究方法論を修得することは益々重要なことと考える。筆者は若い時代に、薬学、電気化学、有機合成化学、酵素学、薬理学などの分野の研究方法論を浅薄ながら習得したことがあるので、現在のような情報過多で進歩の早い時代に、他の分野の研究方法及び技術をとり入れる場合余り抵抗を感じないことがある。これは全く当時の若気の至りで好奇心と浅学非才、軽薄な性格によるものである。今後益々他の分野の方法論をとり入れることが多くなることと思われる。

2. 独創の種と畑
 これまで研究分野として境界領域の重要性が論じられている。この分野こそ雑学の効用を発揮できるもので、これから益々雑学の必要性が評価されることであろう。境界領域とはコンビネーションの思想である。例えばアルファベットのA、B、Cは互いに近接しているが、AとZ、BとXとを組み合わせる場合、今までに予測し得なかった概念、思想に展開する可能性がある。このような無関係なそして異質の概念を結び付け、何とか新しい概念を生み出すことである。ここに創造性の開発の種があると思われる。さてこの独創の種を発芽させるには良い畑が必要である。良い畑とは当然のことながら研究の場、研究室である。ここでは自由な雰囲気で、制約を受けないで、活達な議論と相互の協力が必要であろう。また人間関係も重要で相互信頼がなされなければならない。この意味で研究室の運営はまことに重要な道場であり、苦心するところである。

3. 無念無想
 独創性の開発として、今日種々の方法が提唱されているが、実際に実行することは必ずしも易しいことではない。我国における電気化学の創始者の1人である加藤与五郎先生によれば、独創には無念無想が必要であると説いている。これは思索に当たって精神統一の心境を重んじたものである。研究を行うのは所詮人である。人の心を大切にするということで、まことに含蓄のある言葉である。

4. バイオセンサー事始め
 今日各種のバイオセンサーの研究が盛んである。筆者らが始めたのは16年前である。初め酵素反応を薄膜中で行わせて、その生成物を電気化学的に検出できないかというまことに素朴な思考から始まったものである。これも雑学のお陰で電気化学と生物化学との両方の技術及び方法を結び付けたものである。また上記のコンビネーションの概念をとり入れたものである。トランスデューサーでも電気化学反応、熱反応、光反応、周波数変化と展開した。材料も単なる電極から、半導体、セラミックなどに展開してきたものである。さらにエレクトロニクスの進展に伴って、バイオエレクトロニクスの新しい分野に展開している。
 このような展開には時代性もあるが、始めの小さな種が良い畑に恵まれて生育したものである。顧みて、小さな種の育成に良い畑として数多くのすぐれた研究者に恵まれ、またその人間関係をいかに大切にするのかを学んだことである。所詮研究者は人である。人の心を大切にしたいものである。


学は多に在らず、

要は之を精するに在り




ガスセンサ V

今中 信人

大阪大学工学部

 ガスセンサI、Uに引き続き、今回は亜硫酸、硫化水素、シランを取り上げ、1983年から1985年の動向について概観する。




バイオセンサ U

軽部 征夫

東京工業大学資源化学研究所

はじめに
 UpdikeとHicksが1967年に最初、酵素センサを発表してから18年が経った。生体素子と各種トランスデューサを組み合わせたバイオセンサはこの間に、分子識別素子としては酵素、微生物、抗体、レセプタ等、トランスデューサとしては電極、半導体チップ、フォトダイオード、サーミスタ等と拡大の一途をたどってきた。今年になってHigginsらによって“Biosensors”誌が創刊されたり、J. Chem. Educ. 誌にバイオセンサが大学学部用実験の課題として取り上げられるなど、バイオセンサは社会的に広く認められ研究者の数も増えてきた。
 本稿では1984年後半から85年前半にかけて報告された欧文報文及び国内の学会発表をもとに最近のバイオセンサの研究の動向について概観することにする。




FET型湿度センサ

実吉 秀治・枡川 正也

シャープ(株)中央研究所

はじめに
 電解効果トランジスタ(FET)とセンサとを一体化することによって、FETの高い入力インピーダンスと、そのインピーダンス変換機能をいかした、超小型高出力(高S/N比)のFET型センサが実現でき、さらに、信号処理回路との一体化や、他のセンサとの複合化を図ることによって“インテリジェントセンサ”へと発展させることが可能となる。
 今回、通常の半導体技術による微細加工が可能な有機高分子膜を湿度センサ材料とし、これをMIS型のFET素子上に形成することによって、FET素子との一体化を図り、また同一チップ内に湿度センサを形成した、超小型の温湿度複合センサを開発した。以下に当FET型湿度センサの基本構造、動作原理、基本特性及び信頼性について紹介する。




第4回化学センサ研究発表会

(1985年9月30日、10月1日 於 東京工業大学長津田キャンパス)

山内  繁・相澤 益男


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