Chemical Sensors

Vol. 1, No. 3 (1985)


Abstracts



化学センサの展望

早川  茂

松下電器産業(株)専務取締役・技術本部長

 現在は工業化社会から情報化社会への移行期であるといわれている。情報化社会は多様な、しかも大量の情報が収集・処理・蓄積・提供されるシステム社会であり、これらの情報が資本財に代わって価値をもつ社会である。このような情報化社会の実現を可能にしたものの一つは、社会のいろいろの情報システムへの入力部にあたるセンサの進歩である。
 従来、これらのセンサのうち特に化学センサは、例えば人間という一つのシステムで考えると、情報入力部である五官のうち味覚と臭覚の部分に相当する。しかし現在実用化されている化学センサは人間のそれらが感じない物質の種類や量を検出することができ、主にセキュリティ・システムで実用されている。ただ、その使用量はガスセンサで約6.3%、湿度センサで約5.3%と少ない。その理由は、外界との物質授受に伴う電気的変化を利用しているための経時変化が避けられなかったことによる。大部分のセンサはアナログ的変化を検知するので、このような経時変化を避けるために専門家による定期点検や保守を必要としているのが現状である。ただ、湿度センサによる沸騰や結露の検知や酸素センサによる燃焼の当量組成の検知のように急激な変化を検知するものに関しては、電子レンジの調理制御や自動車エンジン制御のように半ば保守・点検を要しない形で使われている。
 さらに、化学センサのような物質授受をともなうセンサにおいては選択性が問題になる。現在、この選択性を得る手段として、セラミック湿度やガスセンサでは吸着・反応サイトを利用する。また、室温および高温酸素センサや各種イオンセンサでは選択透過膜を、生物電気化学センサでは生物関連反応を利用している。
 このような問題を孕んでいるにもかかわらず、最近特に科学センサが注目され、研究されるようになって来ているが、、その最大の理由は、結局、センサの最終目標が生物の感覚器官であると考えられるところにある。生体では外界情報の検知・認識・判断がすべて生物化学反応を通じて行われている。すべての感覚器官は化学センサであるといえる。その部分部分の機能は決して完全なものではないが、全体として工学的センサの到底及ばない素晴らしいものを作り上げている。生物電気化学における酵素、微生物や抗体―抗原反応のように選択能は見事であり、しかもディジタル信号の形で取り入れて伝送している。
 現在時点で、生物の感覚器官を一つのデバイスとして研究対象とした場合に、二つの切り口がある。その一つは材料的な切り口であり、もう一つは装置的な切り口である。後者については、最近の半導体技術の進歩によって、マイクロプロセッサが非常に身近なものとなったので、材料の示す機能をより目的に合致したものに調整、処理できるようになっている。一方、材料面については最近活発化しているバイオの技術からある種のガンにのみ作用する抗体など素晴らしい成果が生まれつつある。ただし、生物の感覚器官というものは、この材料と装置とがそれぞれ分別されて、一つの機能を出すために役割分担をしているのでなくて、融合した形で一つの機能を出しているといえる。したがってこのような融合したデバイスとしてセンサをとらえる研究が期待される。




ガスセンサ U - 酸素センサ -

山内  繁

東京大学工学部

 酸素センサの1983-84年の動向としては、安定化ジルコニア酸素センサの普及とともに、その限界を克服するための新しい酸素センサの提案がなされてきたことにあるといえる。これらの動向についてまとめてみたい。




半導体化学センサ

江刺 正喜

東北大学工学部電子工学科

はじめに
 1970年代初頭から半導体を用いた化学センサの研究が盛んに行われてきた。本報では主に1983年以降の半導体化学センサの研究の進展について述べる。
 セラミックを用いたガスセンサなども半導体を素材とした化学センサであるが、このような均質な構造のものについては本書のガスセンサの項を参照願い、ここではシリコンなどを基板に用い、集積回路技術を適用して製作されるような化学センサを対象とする。ただし、集積回路技術は加工だけに用い、半導体の機能性は利用しないセンサ、例えばポーラログラフの原理によるO2センサをシリコン基板上に製作したようなものは、ここでは対象としない。
 化学センサは気体中の成分を検出するセンサと液体中の成分を検出するセンサに大きく分けられる。以下ではまず半導体化学センサの分類について2章で述べた後、3章で気体用センサ4章で液体用センサについて述べていくことにする。




毒性ガスセンサ

小宮 弘隆

バイオニクス機器(株)

はじめに
 ガスセンサーといえば一般的に半導体ガスセンサーを想像される方が多いと思われる。けれども一般高圧保安規則で設置が義務付けされている毒性ガス検知用として隔膜電極法と呼ばれる電気化学ガスセンサーが広く使用されている。
 この隔膜電極法は許容濃度(TLV)の低い毒性ガスの検知に適しており、特にそのなかのガルバニ電池法は外部加電圧を必要としないために、残余電流が小さく高感度にする事ができる。既にそれらのいくつかは紹介されているが、今回それ以外の新しい毒性ガスセンサーの例とその特性について簡単に述べる。




第5回「センサの基礎と応用」シンポジウム

(1985年5月30-31日 於 筑波研究センター)

山内  繁

東京大学工学部



1985 Solid-State Sensors and Actuators 国際会議

山添  f・荒井 弘通・江頭  誠・定岡 芳彦


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